2019年12月8日日曜日

男の「矜持」

「矜持」とは、「自信と誇り」「自信や誇りを持って、堂々と振る舞うこと」という意味だ。

アフガニスタンの支援活動に心血を注いでいた医師の中村哲氏が襲撃されて亡くなった。

往時、登山隊の医師としてアフガニスタンとパキスタンの国境に赴いた際、治療を懇願する貧しい人々を助けられなかったことが医師としての使命感を突き動かし、診療所を開設した。しかし、干ばつの影響で次々と命を落とす子どもたちの姿を見て、灌漑事業を行うことを決意した。
乾燥し、ひび割れた大地に水を引いて来た。
水は命に係わる。用水路を完成させたところには、いつの間にか小麦やかんきつ類の畑、高々と伸びた木々。大勢の子供たちが軒を連ねる商店の前を歩いて学校に通っていた。

用水路の確保、灌漑事業はとめどもなく続く。

ここ郡山も安積開拓と言う明治政府の政策で、猪苗代湖の水を苦心惨憺の末、引くことに成功した。
それ以前の郡山がどういうところだったか。

宮本百合子の「貧しき人々の群」という著作に詳しい。

中村医師は折に触れて経験に基づいた数々の言葉を残してくれた。

「平和には戦争以上の忍耐と努力が必要だ」。
4年前、一時帰国していた時の講演。
「アフガンでは米軍が落とした爆弾で、多くの子供たちが死んだ。
その米国と軍事同盟で一体化を目指す安倍政権について、“こんなバカな政権はない。憲法に従う義務はあるが、政権に従う義務はないと考えている”と。

現場主義を貫き、命の大切さを実践する男の「矜持」を見た。

中村医師の訃報が明らかになった日の夕方、官邸で記者団との立ち話で、通り一遍の悔やみの言葉を述べ、最後の言葉の語尾を言うか言わないかの瞬間、もう踵を返すようにマイクの前から立ち去った。せめて言葉を終えた後に、ひと時の瞑目、目礼があって然るべきだと。

中村医師と交流のあった上皇ご夫妻は、侍従を通じて哀悼の言葉を遺族に伝えられた。「驚き、深い悲しみを覚えているご様子だった」という。

国民の象徴であられた方の矜持の表れだ。

中曽根康弘が亡くなった。101歳の大往生。
中曽根内閣時、彼は官房長官に、内務省時代の先輩である後藤田正晴氏を三顧の礼を尽くさんばかりに官房長官に迎え入れた。
後藤田はその著書、「政と官」で憲法の順守、官吏の心得を書いている。
中曽根政治に“誤り”を見ると、諌言することに意を用いていた。

古武士風の風貌の中から、官僚、政治家の道を歩んできた人の少なくとも官僚斯くあるべしという「矜持」が垣間見えた人だった。

「桜を観る会」のことで世間がその不可思議さを感じているさなか、公邸にオリックス会長とともに、メジャーリーガーのイチローと食事をした。
イチローに国民栄誉賞の受賞を重ねて勧めた。
スポーツ紙の報道によれば、「野球を通じて私はフェアプレーの大切さを学んだ。ルールを破ったり、ごまかしたりするのは好きではないです」とイチローは述べたと言う。受賞をその都度固辞するように助言したのは弓子夫人だとも言われている。

安倍晋三、昭恵夫婦の間に、夫人の「内助の功」はあるのか。夫人が亭主の足を引っ張っているようにしか見えない。
古い言葉だが、タレント大好きの「ミーハー」な夫婦だ。

「桜を観る会」をめぐる数々の“疑念”。
名簿破棄の証拠隠しに始まって・・・。
数々の公私混同。愚かな宰相夫婦の姿を見る。

まともな政治家なら首相の行動、言動を諌めるべき官房長官。
安倍をかばうのに「ウソ」をつき、それを上書きし、平然と官邸に君臨している菅官房長官。官僚を屈服させることに快感をおぼえてでもおるのだろうか。
哀れな男だ。

野党のヒヤリングに対して答弁する官僚たちの言葉は嘘と欺瞞に満ちていることは誰が聞いてもわかる。
官僚としての「矜持」をかなぐり捨て、安倍や菅の意向を、顔色を伺う姿。
余りにも醜い姿だ。
彼らの言辞は日本と言う国の統治機能の激しい衰退を象徴しているようだ。

その醜さや欺瞞を追及しきれないマスコミにも“衰退”を感じる。

碩学者の安岡正篤氏は、その著書の中にしばしば“エリート”という言葉を官僚に当てはめ、その心がけを語っている。

安岡正篤は戦後の政界に「知性」としての影響力を与えて来た人だ。

田中角栄が総理を退陣するにあたって記者会見で述べた言葉の中に、「沛然としてふる驟雨に心耳を澄ます」という一節がある。安岡氏が手を加えた一文だと聞いた。

後藤田も安岡正篤も皆鬼籍に入った。
あまた人無きが如し。

きょうは日米開戦の日。なぜ軍部の台頭、独走を許したのか。政治家の力量が無かったから、官僚機構が腐敗していたからだとも聞く。

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