「鳥のまさに死せんとするとき、その鳴くや哀し、人のまさに死せんとするとき、そこ言やよし」。
論語の泰伯にある有名な一節。その一節を思い起こしたのは一人の官僚の自死だ。
“鳥の死にぎわの悲鳴には、人の胸をえぐるような悲痛さがこもっている。
人が死を前にして言うことばには、真実がこもっている”ということ。
。
森友問題で、当時の近畿財務局に勤務していた赤木俊夫さんが関係書類の改ざんを上司から執拗に迫られ、苦悩の末に「死」を選んだ。
彼が生前語っていた言葉。
「私の雇い主は日本国民。国民のために仕事ができる国家公務員に誇りを持っています」。
今、国家の中枢機構は「政官癒着」の極みにある。
赤木さんの吏道の精神、いや、官僚の矜持を持っている人は皆無だ。
赤木さんはいわゆる「ノンキャリ」組。前職は国鉄職員だったと聞く。
「公正に職務を執行していますか」「疑惑や不信を招くような行為をしていませんか」。赤木さんは「公務員必携書」の「倫理カード」をいつも携えていたという。
国家公務員倫理カードを「座右」に於いていた「現場の職員。彼を死に追い詰め、保身のために沈黙する中央のエリート官僚たちにはもはや「吏道(りどう)」というものは存在しないようだ。
吏道とは、官吏として守るべき道徳と広辞苑にある。
官吏とは国家公務員だ。
その国家公務員もキャリアとノンキャリアに分かれている。
キャリアとは国家公務員上級試験に合格した人。ノンキャリは一般職の試験で入ったひと。ノンキャリの多くは仕事でいくら成果をあげてもせいぜい課長補佐までが通り相場。
文部科学省の審議官にノンキャリの人が登用された。
初めての事だという。
城山三郎の小説に「官僚たちの夏」というのがある。
日米繊維交渉の中で苦悩したノンキャリが描かれている。
繊維の対米輸出を減らすため、繊維業界は「工場の織機」を壊した。
交流のあった通産官僚は「裏切り」を責められた。
ひたすら頭を下げてのはノンキャリの官僚。
そんなことが思い浮かんだ。
森友を巡る「闇」は深い。キャリア官僚の佐川は安倍を守るために「証拠書類」の改ざんを赤木さんに命じた。赤木さんの上司はそれを知っている。今や官僚どもは官邸に集い、ご機嫌を伺い、出世の道を確保する。
彼らの辞書には国民が存在しない。
赤木さんの冥福を祈っている。奥さんの身に何事もないことも。
身命を賭して官僚の矜持を守った人がいたことを忘れない。
2020年7月23日木曜日
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