2016年9月12日月曜日
「からから亭日乗」のこと
毎月原稿を書いている、1600字程度のコラムめいたもの。郡山のタウン誌だ。
そう、もう10年も続いているだろか。
そのタウン誌の常連読者からこんな葉書が来た。正確に言えば、そのタウン誌へ寄せられた葉書だが、編集長経由で“転送”されてきた。
そこにはこんなことが書かれていた。
「(瀬川)氏のブログ“からから亭日乗”に誘われて永井荷風の“断腸亭日乗”をひっぱりだしました。
昭和16年正月1日―。かくのごとき心の自由空想の自由のみは、いかに暴悪なる政府の権力とてもこれを束縛すること能はず、人の命のある限り自由は滅びざるなり」。
この葉書の主とはたしかそのタウン誌の集まりでの一回だけしか面識がない。しかもゆっくり話したわけではない。
しかし、その人は、どこで知られたのか「からから亭日乗」のことを知っておられた。
氏の指摘通り、「からから亭日乗」はまさに永井荷風の「断腸亭日乗」から“拝借”したものだ。
そのことを読みとって荷風の一節を引用してくれた。
感謝というか、驚きと言うか。
この方の“謦咳”に触れた気がして。
聞くところによるとその人は郡山の高校の先生をされてきた方だと言う。
この「からから亭日乗」、これも約10年続けてきた。もちろん今のようにSNSなるものが無い時から。
かっての会社時代の部下に勧められてやり始めたこと。当初は「日常」の出来事や居酒屋談義のようなことを日々取り留めもなく記して来た。
「3・11」がそれを変えた。
この国が如何なる国であるか。災後、いささかの“沈黙”のあと堰を切ったように、“怒れる心情”を、断腸の思いで書いて来た。
荷風の断腸とはいささか事情は異なってはいるが。
情けないかな、毎日「書くこと」しか出来なかったのだ。
日乗とは日記のことだ。去年の夏以来、途切れた時もあったが、これからも毎日は無理だろうが、荷風がそうであったように、晩年は一行のみであろうとも、多分何やら意味不明のことも含めて書いて行こうと思っている。
若い衆に勧められて、SNSというものが登場してきてから、この”ブログ“なるものをフェイスブックやツイッターに上げることにした。
読んでいてくださる方には感謝している。
冒頭に紹介した元先生はSNSはやってない様子だ。
旧友も、旧知の人もやってない人がかなりいる。
いや、郡山の人でも、塾生でも敢えてやらない人もいる。
だから“更新”を知るには、いささかタイムラグを生じてはいるのだろうが、遠方の人には“安否確認”の具にもなり得るようだし。
荷風は「人の命のある限り自由は滅びざるなり」と書いたと知った。
そこでふと思った。
「リベラルとは自由に喋れることだ」。先日亡くなった旧知の加藤紘一が生前に語っていた言葉が重なったのだ。
政治家の”区分け“は難しい。しかし保守リベラルを以って任じてきた加藤紘一は心底そう思っていたのかもしれないとも思う。
彼とはそんな話をした記憶はないが。
ジャーナルという言葉がある。
それが転じて、ジャーナリストという言葉が生まれたのかどうかは定かではないが。
ジャーナルという言葉も元を質せば「日記」という意味だ。
いま、ジャーナリズムの中の「自由」とは何を指すのか。
はなはだ不可解である。
40年間以上、自分のために書き留めていたノートがある。
そこにあるポール・エリュエールの詩の最後を転写する。
「そして、たった一つの言葉によって、ぼくはもう一度人生を始める。
ぼくは生まれたのだ。お前を知るために。
お前に名づけるために。
自由(リベルテ)と」。
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2 件のコメント:
「政府の専横一層甚しき今のこの世の中」
野坂氏、永六輔氏、巨泉氏、加藤紘一氏・・・
訃報が続く中、この葉書のお話しはうれしいニュースです。
これからもゲンキちゃんのパパさんが断腸の思いで書いてくださる怒りの心情を拝読できることに心から感謝します。
小島さま
返信遅くなりました。申し訳ありません。
気持ちだけは「長生き」を目指そうと思ってはいるのですが。
人が死に、「一つの時代が終わった」とメディアに登場する常套句には毎度反感を覚えているのであり。
歳を重ねると見えてくるものが多々ありなのであり。
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