昨夕ー。友人のアトリエに車を走らせていました。西の空に朱い夕日が沈む頃。その空の向こうには雪を頂いた山が・・・。美しい光景。思わず車をとめて写真を撮ろうと。シャッターチャンスの場所が見当たらない。携帯カメラ。空と雪山を撮ろうとしてもどうしても自分がいる周りの風景が入ってしまう。その周りの風景とはー。建物の上に作られた看板、なにか醜悪ささえ感じられる建物の数々。そして何よりも邪魔なのが電線。まるで蜘蛛の巣、蜘蛛の糸のように張り巡らされている電線、電線・・・。
たまには上を見てみるものですね。あんなに電線が張ってあるとは。電気、電話、通信用・・・。ほんと蜘蛛の巣のような電線が、空を遮蔽している如く。すべて生活の為には必要な電線なんです。その下でボク達は暮らしているのです。
アトリエの場所は郡山の郊外。八山田。地中に埋蔵されてないからでしょうか。空を見ようとしなかったら気がつかなかった光景。
友人にその話をしたら、なんと平成6年時の航空写真を持ってきてくれました。当時はモダンであった鉄筋3階の建物。アトリエ、事務所、自宅兼用。なんと周りは田んぼと畑だけ。ちょっと離れて大きな農家が4軒だけ。電線の姿はまったく目立たず。15年の歳月が街の光景を大きく変えたのですね。田んぼはおろか空き地さえも無い。コンビニ、洋服屋、居酒屋、ガソリンスタンド・・・・。所狭しと立ち並び。往時の面影は伺うすべも無く。
「あの頃は、アトリエの屋上に上がって月や星を社員とよく見たもんだ」。友人がつぶやく。やがて宵闇の時間。アトリエの玄関に出ると、南の方の空に月と星が・・・。またもや携帯取り出して・・・。撮れない。建物と電線が邪魔をして。
それはそれは見事な月と星との三重奏でした。
今朝の朝日新聞に掲載されていた写真です。これと同じ、全く同じ月と星の三重奏。木星と金星と月のコラボ。
無くては生きていけない。大事な大事な電線。それの群れ。それを"醜悪"と言ってしまったら、それこそ罰が当たる。そうは思うもののちょっと垂れ下がって、強い風が吹いたり、何かがぶら下がった、プツンと切れてしまいそうな細い物も。その細い電線はまさに芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のようでもあり。主人公「かんただ」がぶら下がっていたお釈迦様がたらした蜘蛛の糸。地獄と極楽の境目。
芥川の世界では、「極楽の蜘蛛の糸は月も星も無い空の中途に短く垂れている」と書かれています。蜘蛛の糸の向こうに月や星が見えただけ、まだ良しとしなければいけないのでしょうが。地獄と極楽の境目でボク達は生きているのでしょうか。