福島県が生んだ詩人、長田弘の作品に「立ちどまる」と題されて詩がある。
立ちどまる。
足をとめると、
聴こえてくる声がある。
空の色のような声がある。
木のことば、水のことば、
雲のことばが聴こえますか?
石のことば、雨のことば、
草のことばを話せますか?
立ちどまらなければ
ゆけない場所がある。
何もないところにしか
見つけられないものがある。
この詩を軸にして今の世相を考えてみると、あらゆることが包含されているような気がしてならない。
「3・11」。あれは日本人に対して「立ち止まること」を求めたものだったのかとも思う。原子力発電所の爆発を伴ったあの大災害。
それが東京という日本の中心部を襲ったものでは無く、いささか巻き込みながら、東北というところに災禍をもたらした。
それは東北と呼ばれる地域が、かつてその歴史が示しているように、「立ち止まれるところ」として“選ばれた”ところなのかもしれないと思ったから。
執拗に言うが、あの時日本人の多くは、それが一瞬だったとしても「立ち止まって考える」ということの必要性を感じたはずだ。
しかし、そうでは無かった。
一瞬は立ち止まったものの、越し方行く末を考えはしたものの、“虚飾の繁栄”の界からぬけ出すことは出来ず、一過性の「出来事」と認知されてきてしまったようだ。
山本七平が「空気の研究」の中で喝破しているように、「日本人とは」の中で見抜いているように、いったん出来上がってしまった空気には抗がらわない。空気の中に沈殿する。空気を良きものとして、安んじてその中に身を置く。
そんな「分析」が全く持って的を射ているように思えるのが、逆の意味で悲しい。
「3・11」という災禍があったにも関わらず、“最高権力者”と自称する人は、それを埒外の問題にし、それを忘れることをすすめ、原発事故など無かった国の如く振る舞い、東京オリンピック招致に狂奔していた。それに多くの人が追随していた。招致の目玉は奇想とも思える巨大なスタジアム。
今の日本はあの宰相が君臨しているかぎり、その狂気の沙汰から逃れることは出来ない。
その巨費を必要とするスタジアムは「国際公約」とされ、その「公約」は金科玉条の如くに喧伝され、まったくもって「おためごかし」のような有識者会議なんていうものの議を経て、とりあえず2520億円もの、まったく調達の裏付けも無い巨費で建設することが決まってしまった。
決してオリンピックを忌避するものではない。しかし、それの開催国になるかどうかは、まさに国力、国情によるものだ。
ギリシャの経済危機。それの予兆はアテネオリンピックの開催にあったと思う。
メインスタジアムの建設費はたしか360億円くらいだったものの、その巨費をねん出するために、結果、今の財政破たんという状況を生み出したのだとも。
日本がギリシャの二の舞にならないという保証はどこにも無い。
そんな「未来予想図」を漠然とは予測していたかどうか。デザイナーは自らのデザインに拘り、建築家は自分の持つ「美学」の酔い痴れ、カネの事は誰かほかの人が考えるだろうと自己主張だけを続けた。
長田弘の詩を読んで欲しい。詩の中にある光景から想像してほしい。
もう時間切れだと関係者は言う。この3年間、「立ち止まる時」はあったはずだ。
「考える時間」もあったはずだ。
誰もそれをしなかった。自我にだけ酔いしれていた・・・。
今さら「負の遺産」なんて言ってもはじまらない。
平たい言葉で言えば「先立つもの」が無いのに、その当ても無いのに、国威高揚だけはやってしまおうってな魂胆か。
「東京オリンピック問題」を取り仕切れる指導者は不在だ。まとめ役のいない公共事業の談合の如き様相だ。
「あの時立ち止まって、よく考えていれば・・・」。そう気づいた時はすでに“後の祭り”。
そして戦争法案の進み方も全く同じ空気のように映ってくる・・・。
2015年7月9日木曜日
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