2016年10月4日火曜日

「秋刀魚」のこと

秋刀魚の美味な時期である。このシーズン、何回食しただろうか。
ただ、福島のいわき沖でのサンマには、まだ、おめにかかれないが。

福島に来て、はじめて知った。「さんま刺し」、さんまの刺身と言う食べ方を。
そしてそれがとびきり美味だということを。

そのいわき沖のさんま。数年間の「休漁」を余儀なくされ、漁獲量が激減したという。
一つは温暖化による海流の変化。秋刀魚の生息地の変化。それと中国や台湾のはるか沖合での公海での大量捕獲。
近海物は「小さめ」になっているとも聞く。

秋刀魚に限らず「常磐もの」は築地市場でも好評だったと聞くのだが・・・。

戦後間もなく、どこの家庭でも秋刀魚は食卓を賑わしていた。1年間ほど暮らした「戦災長屋」。夕食時、どこの“家”からも炭火の七輪で焼く秋刀魚の煙が上がり、生活しているということの「光景」だったのだ。

ラジオからはしきりに「♪安くて美味いよさんま、安くて美味いよさんま、さんま~~さんま」という歌が流れていた。

その歌の歌詞が佐藤春夫の”原作“であるらしいと勝手に思ったのはずっと後のこと。

“あはれ秋風よ
情(こころ)あらば伝へてよ
――男ありて、今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて 思ひにふける と。

さんま、さんま
さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。

秋刀魚は「高嶺の花」どころか「高値の花」になった。最近は、しばしば、値段が比較的安い時に秋刀魚を食す。
男一人ではないけれど。

油の乗った秋刀魚は、子供の頃に慣れ親しんだ味覚のせいか、郷愁をも伴って美味い。
七輪ではなく、つまり炭火ではなく、レンジで焼くのはいささか風情に欠けるという、ある種の“贅沢感”を覚えながら、だ。

秋刀魚の歌のいささか後の時期になろうか。流行っていた、ラジオからいつも流れていたのは「コロッケの唄」。

 ワイフもらってうれしかったが いつも出てくるおかずがコロッケ
 きょうもコロッケ 明日もコロッケ これじゃ年がら年じゅう
コロッケ、コロッケ

熱々のコロッケを頬張るのはなんとも嬉しい。

よく買い物に行く肉屋さんの名物コロッケ。90年間同じ味だとご亭主は言う。
たしか一個90円だったか。

食品ロスの話を聞き、フードバンクの話題を聞き、テレビで年がら年中やっているわけのわからない「グルメ番組」を見て、なぜか思う「サンマ」と「コロッケ」のこと。

豊かな国と言われる中での庶民の食卓のこと。

秋・・・。

きょう我が家の周りでは稲刈りが終わった。黄金色が土色に変わった。


昔,小津安二郎監督の「秋刀魚の味」という映画があった。あの笠智衆の渋い演技。
どこの家庭にもあった光景。

妻が死に、娘が嫁に行き、戦争が、古い時代が、彼の青春が「終わった」。
この映画の主題は「時代」ということかもしれない。
「秋刀魚」という魚になぞらえて、あの時代の映画はさまざまなものを問いかけている・・・。もちろん「戦争」をもだ。

余りにも「人間臭」漂う映画に、未だに惹かれるのは老いたせいかな。とも。

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