そこに行きたい。それを見たい。ひさしぶりに“それ”を見に行った。
国道4号。東京の起点から288キロのところにある。郡山から本宮方面へ。
川内、富岡、大熊に通じる288線との交差点のところにそれは今も“毅然”として立っていた。
一枚の看板だ。上り線側にある。
「負げでたまんに福島」。
負けてたまるか福島県という意味だ。最初にこの看板に出会ったのは2年も前か。いやもうちょっと前か。
「がんばろう福島」というスローガンに満ち溢れていた頃。
この看板の言葉に惹かれた。胸が熱くなるような思いすらした。意地なんだ。見えざる敵への覚悟の表明。己に課した言葉。
きょうもその看板は、以前と変わらぬように、誰かが時々拭ってでもいるのか。
そう、“毅然”として立っていたのだ。
その看板がある方向は、この数年、滅多に通らない。会いたいと思って行ったらやはりあった。
なぜか“安心”したのだ。
NHKの東北だけのネット番組だったと思う。東北Zという番組だったか。昨夜O・Aされていた番組。原発事故で被害を受けた人たちの話。避難している人たちの話。たぶん最初の自死者であったろう須賀川のキャベツ農家の家族の話・・・。
桑折町の野菜農家の人は、露地物は作れず、ハウスできゅうりを栽培していた。
丁寧に一本、一本手入れしていた。
きゅうり栽培だけが唯一の仕事。
「俺たち百姓から土をとったら何が残る。何も残らない。土を奪った奴らを許せない。風評被害なんて言っていてもはじまんない。だから俺は土と一緒にいるんだ。負けてなんかいられない。負けたたまるかだな」。
その看板のあるところに向かわせたのはその農家の人の言葉があったからかもしれない。
須賀川のきゃべつ農家の息子は言う。「マスコミがずいぶん来た。でも取材には応じなかった。彼らの興味が何かがわかったから。親父は放射能被害で出荷が出来なくなったことだけを悩んで死んだわけじゃない。もっと深い意味があったんだと思う」と。
その農家の出荷先は多くが東京だった。
飯舘村の高校の先生は言う。避難先で。
「福島で作られた電気をじゃぶじゃぶ使っていた人たちに、やはり異質なものを感じる」と。
1Fで作られた電気は“東京”で使われていた。消費されていた。それを知らなかった人がほとんどだ。事故後、それが福島県で生み出されていたものだということを知ったはず。
知った以上、それによって生活を、人生を変えられてしまった人たちに対して、単に“寄り添う”という言葉だけではなく、“懺悔”の仕方が、作法があるのではないか・・・。
だから自らに刻む。「負げでたまんに」と。
プルームは北西に進んだ。
原発から20キロにある広野町は一昨年、避難指示が解除された。でも「帰還率」は思わしくない。
過日、広野であった国際シンポジウム。そこで広野中学の三年生の子が言った。
「町に帰らずになぜ避難を続けるのか。原発事故による放射線量が理由ではない。一番の理由は“便利か否か”ということだと思います。いわきに避難しています。広野より便利です。福島市や郡山市に避難している人たちも、みな同じではないでしょうか。なのになぜ町民が本音を言わないか。白い目でみられるからです」。
「本音」を言えなくなった地域社会。本音を多くの人の前で語った中学三年生。
その子の中にも“負けてたまるか”という意地と、便利さに魅かれていく大人たちへの“意図せざる抗議”の意志があったようにも思える。
何があろうとも、どれだけの人が苦しもうとも、「便利さ」をあくなく追求していく人類。
知らず知らずのうちに「便利さ」に染められていく性(さが)・・・。
道端の看板を見ながら、また考えた。
2014年6月21日土曜日
“チェルノブイリ”異聞
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