第一次安倍内閣のキャッチフレーズは「美しい国日本」だった。
その「美しい」というのが何なのかは判然としないまま、その言葉に酔っていた人も多い。
国土の美しさか、精神性の美しさか。
第二次安倍内閣、キャッチフレーズは「取り戻そう日本」だった。日本はどこかに奪われていたのか。それを取り戻そうということか。古き良き時代に、それは彼が思い描いている姿なのだろうが、そこに戻そうということか。
戦後、たしかに日本は国土を失った。それは沖縄だ。大方の国土は消失し、焼け野原になった。そして復旧・復興が、繁栄した日本に姿を変えた。
美しい国土。それは「3・11」で大きく容姿を変えた。少なくとも、被災3県と言われ、津波で流された国土。
“放射能”の汚染された国土。
緑豊かな光景は減った。代わりに巨大なコンクリートが国土を覆い、汚染物質が詰まった袋が大量に野積されている国土。
空地に生い茂った夏草。その草いきれは、なぜか悲しさを連れてくるようだ。
美徳。美しい日本人の精神性。
3・11後の途方に暮れながらも給水車や支援物資に、一列になって並んでいた人たち。暴動も起こさなかった人たち。
帰宅困難者が大量に出たにもかかわらず一晩をどうにか過ごした人たち。
サッカーでゴミ拾いする日本人サポーター。その姿は美徳と評価され、賞賛を浴びる。
片や、同じサポーターでも東京渋谷では道路を“占拠”する。
ゴミを片付けること。拾うこと。「当然」のことだ。列に整然と並ぶこと。「当然」のことだ。それが「美徳」とされるということ。
当たり前の事が美徳。ならば、当たり前の国になればいい。すればいい。
だけど・・・。
この国では、自分たちが作った「核のゴミ」を拾うことが出来ない。全部、遠い将来のことにしてしまう。
汚染された水はタンクに詰め込んでおくしかない。タンクだけが増えていく。
タンクの横にいる夏草だけが笑っているようにすら見える。
国とはなんだ。美しい日本とは何か。
戦争への道は、美しい国への道か。
「選良」と呼ばれる人たちは、決して美しくない言葉を平気で吐く。
言葉は心の裏返しだ。
カネと欲にうごめく輩がいる。金儲けは美徳とも言われる。綺麗なビル、綺麗な洋服、綺麗なレストラン・・・。そこに入った人たちは美しい人たちなのか。
小学校の脇を通った。すれ違う体操着の子どもたちは、一様に「こんにちは」と笑顔で挨拶をくれた。挨拶を返す。子どもたちの顔はみな美しく見えた。
でも、片や、知らない人に声をかけてはいけない。こっちから声を掛けると「怪しい大人」って見られるかもしれないという恐怖。
街を歩く。すれ違いざまに肩がぶつかる。若い女性に睨みつけられる。
「ゴメンナサイ」と誤るのはいつもこっちだ。でも、その女性の姿態は美しい。
「美しいと思えるあなたのこころが美しい」。
花をめでることで言われた言葉。
美しいものを美しいと素直に感じられる自分がいなくなってきているようだ。
だからか。茨木のり子の詩ではないが、シッキムやブータンに憧れるのかな。まだ見ぬ国に。
でも、こよなく日本人で有り続けたいと思っている。さまざま“葛藤”を重ねながら・・・。
2014年6月26日木曜日
“チェルノブイリ”異聞
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