近所の田んぼに水が張られ始め、田起こしの準備が始まったようだ。
昨日はとんでもない天候だった。
雨、雷、そして雹。
夕方、雨水を含んだ田んぼから、雨が止んで、なんとカエルの鳴き声が聞こえた。
7年前、今のところに居を定めた条件の一つが、周りに田んぼがあることだった。引っ越したその晩からカエルの鳴き声が、まるで“外来者”を歓迎するかのようにひっきりなしに聞こえていた。窓を開けて、しばらくカエルの鳴き声に耳を澄ませていた記憶。
それをうるさいという人もいる。嫌だという人もいる。でも、久々のカエルの声は郷愁を伴ってやってきていたのだ。
まだ鳴き声はか細かった。田起こしがもう一回くらいあるのだろう。田植えがあるとカエルの声は“合唱”にかわる。そして、時々、鳥が水の中にある“餌”をついばみに来る。
その田んぼ、だんだん減ってきた。宅地に代わっていく。あと数年もすれば、その地の光景はすっかり変わるのだろう。
家から数十メートル離れたところの棟割長屋のような借家。もちろん平屋の二間。4軒。
そこに富岡町から避難してきた人が住んでいる。その借家の南側に田んぼが二面あった。去年から耕作を放棄した。
そこは重機で掘り返され、土が入れられ、家が建ち始めた。
富岡の人が引っ越してきたとき、「田んぼがあるから富岡を思い出させてくれる」とほっとしたように話していた。
家が建つと、その借家は全くの日陰になる。
その田んぼでも鳴いていたカエルはどこにいったのだろう・・・。
昨夜、カエルの声を聞いたとき、それまで「鬱々」としていた気分が一変に晴れた。
田植えがあり、やがて稲穂が実り、田を渡る風が心地よい季節になる。
自分では何にも作業をせずに、農家の人が作ってくれる“環境”に甘えさせてもらう。
“贅沢な季節”なのだ。そんな環境は郡山の市街地ではもう殆ど見られない。
子供の頃は、東京でもカエルの鳴き声は当たり前のこととしてあったのだが・・・。
友人の版画家は、毎年、「ふくしまの風景」と題したカレンダーを描いている。
来年のカレンダー、その通しタイトルは「帰る」にするという。阿武隈大地の各所を描くと言う。
その中には、川内村の平伏沼も当然入っている。そこは「カエル」で有名なところだ。
蛙の詩人と言われた草野心平が住んでいたところだ。
版画家は「蛙」と「帰る」と掛けたいのだという。
彼の「ロケ地」の候補には飯舘や霊山も入っている。
もともと彼は桜に魅せられた画家だった。県内のあらゆる桜を長年描いてきた。
彼がもっともお気に入りだった桜は、やはり「夜の森」の桜だった・・・。
郡山はいま桜が満開だ。しばらくすると桜の季節は終わる。その後、色とりどりの草花が公園や街のあちこちを飾る。
花の五線譜が、季節の音色を奏で始める。カエルの合唱の声が、その五線譜に書き込まれるのか・・・。
田んぼの隣にある家に帰れる喜び。蛙の声に癒される時・・・。
どこか「うしろめたさ」を覚えるようになってから4年・・・。
2015年4月16日木曜日
“チェルノブイリ”異聞
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