塾生の一人が本を貸してくれた。安野光雅著「皇后美智子様のうた」。この数日、時間を見つけて一葉一葉ページを繰っている。
平成17年、両陛下で訪れたサイパン。“バンザイクリフ”で海に頭をたれておられた両陛下。その時を詠んだ歌。
「いまはとて島果ての崖踏みけりしを皆の足裏思えばかなし」。
戦後50年の平成7年。両陛下は長崎、広島、沖縄への慰霊の旅を果たされた。
戦後60年の平成17年、サイパンへの慰霊を果たされた。
形としては、昭和天皇の詔書で始まり、昭和天皇の詔書で終わった「先の戦争」。
戦争に対する余人には理解出来ない「思い」が両陛下にはあったのだろう。
今日の戦没者追悼式典。
「終戦以来すでに69年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時を忍ぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。
ここに歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り、戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と、我が国の一層の発展を祈ります」。
なにやら「戦争」の匂いがする昨今。お言葉には例年にない力が込められていたように見えた。
もしかしたら、見間違いかもしれないが、首相の式辞や衆参両院議長、最高裁長官の挨拶のときは天皇陛下は自席で正面を向いて聞いていたと見えた。
遺族代表の挨拶時、両陛下は体の向きを右斜めに座りなおした。遺族代表の言葉に耳を澄ませるかの如く。話す人の姿をきちんと見ようとするかの如く。
とても美しい光景に見えた。
今、日本にあって、一番言論の自由が制約されているのが天皇だ。自分の考え、意向をいたずらに発することが出来ない。過去にあったことに目を向け、その地に出向く。それを皇室の伝統的な風習である歌に託して思いを伝える。
今年7月、両陛下は宮城県のハンセン病療養所を訪ねられた。念願の14カ所ある療養所を全てまわられた。元患者と会い、話を交わされた。
6月の沖縄。撃沈された学童疎開船「対馬丸」の記念館を訪れ、死んだ子供たちを弔った。沖縄の人たちの声を聞かれた。去年には水俣病患者とも会われている。
これらを訪問先と望まれる両陛下の心の中にあるものは何か。
「弱者」への視点だ。徹底した弱者への思いやりだ。
3・11.両陛下は被災地に駆けつけ、避難所を見舞い、ひざまずき、被災者と対等の目線でその労をねぎらっていた。
救われた。
岩手県宮古市に津波で家族を全て失い、親戚に引き取られて育った昆 愛美ちゃんという女の子がいる。当時5歳だったか。
愛美ちゃんはおかあさんに手紙を書くと言い出した。そして画用紙に書いた。
「ママへ、生きているといいね。おげんきですか」。書き終えてそのまま寝入ってしまった。
その話を聞いた美智子皇后は歌に詠んだ。
去年のことだ。
「生きてるといいねママお元気ですか」文に項(うな)傾(かぶ)し幼児眠る。
弱者に目を据える天皇皇后両陛下がいる。両陛下の気持ちを忖度することもなく、今、この国は強者の声ばかりが聞こえてくる。強者にすり寄る見苦しい振る舞いもある。権力者が如何なく権力をほしいままにし、経済成長の原理をほしいままにし、より富んでいくことを良しとしている階層がいる。
強者は時として視野狭窄に陥る。
弱者がいるから強者が強者として存在し得るのだ。でも、そんな簡単な理屈にも気づかない。
言論の自由も持たず、何等の実験も無い。そんな中で、徹底して弱者の側に身を置く両陛下。
今、この、平成と言う時代は「悲しみの時代」と位置付けてきた。今日の両陛下の目の中に、ひそかに宿る悲しみの光をみたような気がした。
2014年8月15日金曜日
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