久しぶりに農場主と会った。その後どうしているか気になっていたので。
彼の農場の主力商品は鶏。鶏肉と卵。有機栽培で育てた鶏。これを使った親子丼は絶品。
淡々として彼は語る。「卵の出荷は8割減、鶏肉5割減ですよ」と。全国的にそこそこ有名な彼の農場の鶏。県内だけでなく県外の取り扱い多い。取り扱うところが減ったという。いや、激減。もちろん卵も鶏も「未検出」なのだが。
彼の友人の酒蔵も取り扱いが急激に減ったという。福島市の大波地区で米からセシュウムが検出されて以来。
卵の出荷は明日までと言う。農場の“最後”の卵、買いにいかないと。鶏肉は来年2月で終りにするという。
約束の時間に彼は遅れてきた。理由。業務用の大冷蔵庫、冷凍庫が故障したという。とりあえずの復旧に80万円かかるという。
「なんだい、弱り目に祟り目だね」。亭主の言葉に彼は黙ってうなずくだけ。
日本各地だけでなく外国にも知人がいるという彼。先月イタリアの農場に行ってきたと。完全に自給自足の村に。学んだことが多いとか。
鶏をやめて、あらたな事業を始めようと考えていると。もちろん野菜も作っている。毎日線量計とにらめっこ。
積極的に“除染”はやらないことにしたという。除染ではなく“移染”だからと。除染した水は川を汚すだろうし、たとえばゼオライトの吸着させても、そのゼオライト材の処分が出来ないだろうし。ゼオライト材を置いたところは高線量になるだろうし。
大赤字を抱えながら、次の一手を考えている。土と一緒に暮らしてきたものの気概。「身土不二」が彼の信念。
別れてから気がついた。彼は「風評被害」という言葉を一回も使わなかった。言わなかった。被害者だけど被害者になりたくない。加害者を追及したり、加害者のせいにしても始まらない。そんな気持ちがあるからだろうか。誰かを、どっかを責める言葉もなかったような。
現実を見据え、次に踏み出すことを考えている。広大な農地を使って「研究施設」、もちろん放射能と農業にかんするような、そんなことが出来たらいいなとも考えているような。
まだ45歳。その気があればやりなおせるさ。新しい「農」のモデルケースを作れるかもしれない。
いろんな人が、人たちがいる・・・。
彼の農場の卵。絶品である。太鼓判押す。その卵と会えなくなる・・・。
2011年12月21日水曜日
“チェルノブイリ”異聞
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