かねてから気になっていた映画、藤原敏史監督のドキュメンタリー映画“無人地帯”を見る機会にめぐまれた。
浪江、いわき、飯舘・・・。被災後40日位に撮られた映像。1時間30分余り。それを見入るのは辛かったが。
そして、その映画を見て、時計の針が逆戻りされ、その光景が再び、「今」と重なる。今を撮ったものとの錯覚に襲われる。
映像を伴う仕事をしてきた元テレビ屋にとっても、この映画はある種の驚きを伴う。そして、映画が持つメッセージ性に改めて感じ入る。
冒頭の映像。それは津波に襲われた浪江とおぼしきところの映像。
いささか“業界用語”を使う。
パーンはなるべく使うな。フィックスだ、フィックスだ。ドリーも使うな。そんな“信条”を持っていた。
冒頭はなんと360度と思えるようなパーン。数分間にわたって。なぜか。パーンを使わなければ、その現状は伝えられない。それだけ広い惨状だということ。
倒壊した建物、打ち上げられた船、傾いたままの車。瓦礫の山。40日後は40日前と光景としては変わっていない。遠くに見える穏やかな海。その手前にあるのは何もなくなってしまった、流されてしまった、かつて「人」がせいかつしていたであろう「場」。
被災した人たちと、彼は時間をかけて話している。被災者も真摯に答えている。
引いた映像でわかる。
ガンマイクを使っていない。カメラはかなり遠い場所にある。
身に付けたワイアレスマイクで音を拾っているのか。
マイクを付きだされると人は躊躇し、身構える。本音は言わない。彼のインタビューは立ち話であり、茶飲み話のスタイル。
監督が、映画製作者が伝えたかったであろうメッセージ。それは外国人女性の英語で語られ、日本語はスーパー。
記録されないものは忘れ去られる。映画で使われている言葉。“消費”。消費されてしまう映像。消費されないための記録。
時々、このブログでも書いてきた。「見えるものを見ない」「見えないものを見る」。そのテーマにこの映画も迫っている。そして自らにも問うているような。「カメラを通して、現実を見ているのか」。正確な文字は忘れたが、「わからない」と答えているようだった。
文明と自然と人間。人は土に生きると言うこと。先祖と一体化した信仰やその場への思い。
Seeing is believing。見ることは信じること。昔教わった英語。百聞は一見に如かず。
Seeing is believing。この映画が問いかけてくるキーワード。それは見る者へも、作った側へもの問いかけ。
「見よ!見て己は何を信じたか」。映画はそれに対する結論めいたことを言わない。
ありのままの姿に何を感じるかと言う問いかけか。その問いかけは、表面上は何も変わっていない、美しい風景の飯舘村へへも続く。住むことが許されなくなった前日の飯舘の人達の姿。
「しょうがない」「困ったもんだ」。その“簡単な言葉”に込められている意味は重い。
文明と自然と人間と。そこに突然生じた、あまりにも不条理な“関係”。それを解き明かす言葉は誰も持たない。
藤原監督は続編を製作中と聞く。その製作費をねん出するために外国に行って上映会をやっている。完成は来年とのことらしい。
そこで彼が、また新たな問いかけをしてくるのか。そこから、見る側は何を見るのか。
伝える力としてのテレビと忘れられえない記録としての映画と。彼我にある映像へのアプローチ。
この無人地帯というタイトル。ボクは勝手に解釈する。単に、福島県の一部が人の住めない、人がいなくなった地帯ということだけじゃないと。
no man’s zone。人をマンという男性名詞にしたこと。“無人地帯”。それは、この国全土を言おうとしているのではないかと。
「男」がいなくなったということだと。
3・11後、他にもドキュメンタリー映画が作られている。でも、それらを見られる機会は少ない・・・。見るべきものは見るべきだと思うのだが・・・。
2012年8月26日日曜日
“チェルノブイリ”異聞
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