郡山に本部を置く「墨粋会」という書道会が、年に一回、会員たちが書いた書展をやっています。去年は会場にしている郡山市民文化センターは震災の影響で使えず、二年ぶりの開会。
出展作は120点。テーマは「今 私たちの想い」。代表の増子哲舟氏はこう言っています。
「“放射能”汚染は、進行形どころか、まだはじまったばかりだ。一見何事もなかったような日常生活。でも、今までとは何かが違う。そんな中での各自の想いを作品として残しておくべきだ。それが我々に課せられた役目だ」と。
代表の彼は「黙するは雷の如し」と大書しました。災後に沈黙していることを諌めたのか、黙している雷のような怒りがあるということか。
彼の子息は、アクリル板を使って「花は咲く」という復興応援ソングの歌詞の一節を書きました。アクリル板にはいろいろな花の絵も添えられています。
昨夜、NHKでやっていました。この歌の番組を。辻井伸行さんのピアノ伴奏、安積中学校の生徒の合唱。中学生の中には、避難してきている富岡町の中学生たちも交ざっていました。
娘さんは絵を出しています。小さなパステル画。一枚の横長の小さな紙に描かれた10数枚の絵。何事も無かった日常から始まって、やがて大震災、原発事故・・・。それをやさしい筆致で。最後の絵に添えられた一言。「戻らない」。
もう一人の娘さんは、智恵子抄からひいた「ほんとうの空」という詩の一節を。
白居易の漢詩を用いたり、論語をひいたり、金子みすずや谷川俊太郎や永六輔の詩を書いたり。それぞれの人の想いが「書」という形を使って表現されている。
自作の詩を書いた人も多かった。それを数作引用します。
絶望のなか時が流れる じっと昨日過ぎた 今生きている 明日生きる。
己こそ己の寄るべ 己を措きて誰に寄るべぞ
良く整えし己こそ まこと得がたき寄るべなり
こんなにふるえて こんなにあつい あの日から・・・
心は折れてしまったけれど 自分を信じ 歩いていこう
今日からここから この場所から
笑ってみようよ おかしくなるから
どうにもならない運命なんて そんな沢山ないよ
福島県民の歌も書かれていました。
風。結。たった一字に込められた思いもありました。
書は書です。書くは描くに通じます。最初の字は「掻」。意思を想いを、石や岩に刻んで表現したものと言われます。
3・11後、被災者や被災地を思う多くの人が歌を詠み、詩を書き、絵を描き、そこに自分の想いを吐き出し、表現して、それを力にして来ています。
花は咲く。仮設に花を咲かせている人もいました。津波で流された荒れ地を花で蘇らせた人達もいました。そして、子供たちによって歌にもされている。
書展に寄せられた作品は、すべてが「花」だったなと。墨から万華鏡のようにいろいろな色が見て取れるなと。
“チェルノブイリ”異聞
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