昔、60年安保の頃、東大の大河内総長が卒業式の送辞に書いた言葉。
「肥えた豚より痩せたソクラテスになれ」。一世を風靡した“名言”だった。
この言葉の出典はジョン・スチュワート・ミル。
難解であるといわれれば難解だが。ソクラテスをどんな人とみるか、何を言った人と見るかにもよるが。哲学者、物を考える人と捉えていた。
今、書店に出回っている本に、精神科医の和田秀樹が書いた「東大の大罪」、東大が日本をダメにした。いっそ潰したらどうだろうかーそんな本がある。
東大は必要か? いっそつぶしたほうが日本はよくなるのでは? シロアリ官僚、御用学者、原子力ムラ、無力な地震予知、京大に完敗のノーベル賞。首相鳩山由紀夫・・・虚妄の最高学府を斬る渾身の憂国論と本の紹介には書かれている。
いささかヒステリックな表現ではあるがどこかで納得する。
そして、災後しばらくして出版された、これも精神科医の森田幸孝という人の本。
「インターネットが壊した“こころ”と“言葉”」。警世の書と受けとめた。
早川由紀夫という学者がいる。東大のⅡ理卒。火山学の博士。東大の教授ではなく現在は群馬大学の教授だが。
火山学の“専門家”である早川が、なんで原子力を語り、被曝問題をかたり、あげく疎開、避難まで語るのか。いや、語れせるのか。
ネットでツイッターで“つぶやかれている”彼の言辞は酷い。酷過ぎる。書きだすだけでも腹が立つが、まさに福島を敵視している人に見えてならない。
「消費者はいま、真綿で首をしめつけるようにじわじわと福島の農家を痛めつけているが、いますぐガツンとやってやった方が親切なんじゃないか」とか「岩手宮城のがれき受け入れを反対する人があれだけいたのに、福島から食糧が
流入することに反対する人をほとんど聞かない。福島の食料は体内を通過したあと、やはり焼却される。がれきと同じ運命をたどるのに」とか。
やはり精神科医に患った方がいいのではないかと。
「福島県民は家を捨てて移住すべし」「福島県の農家が牧場で牧畜やセシウムで汚染された水田で稲作を行うのはサリンを作ったオウム信者と同じだ」とか。
あの武田邦彦も東大卒。政府の原子力委員会の委員もつとめていた。原子力工学やウラン濃縮の“専門家”であるはずが、いつの間にか「家庭の医学」の担当になったような。
過激な言辞を弄し、騒擾させ、テレビに出て出演料を稼ぎ、それをもってして書いた著作物が売れる。まさに「肥えた豚」。
いや豚にたとえたら豚に失礼だ。曲がった“ソクラテス”とでも命名しようか。
相変わらずシンポジュームなどには招かれ、粗暴な言説や態度をとっているとも聞く。
彼らの言うことや書くことがどれだけ福島県民を傷つけ、悩ましたことか。おそらくそれには一顧だにしないのだろう。他人事であり、自利だけでいいのだから。
そして、彼らの言辞に飛び乗り、それを「正」として支持するネットに巣くうある程度の知識人である都会人多く・・・。それを振りまくことが、どれだけ「こころ」を壊しているのかは全く思考の外。正義としてそれを“拡散”させる。
拡散といえば、放射性物質が風に乗って拡散されている最中に「拡散希望」とクレジットをつけてデマの類を振りまいていたネット族。使うべき言葉を知らない言語音痴の群れ。そう「言葉」を壊していた・・・。
でも・・・。例えば早野龍五氏も東大。彼は冷静に事実を分析し、非は非としている。信頼を置いて彼の言辞は聞ける。一昨年のあの“爆発”以降、ボクが頼ったのは東大のチーム中川。中川恵一教授のもとに集まった研究グループが、データとともに提供してくれる見解だった。
「無学」な者のリテラシー能力と言ってしまえばそれまでだが。
痩せたソクラテスに一抹の期待を寄せてはいるのだが。それが存するや否や。