「田んぼの稲はいま、収穫を控えて黄金色に染まっています。原発事故が起きなければ、全国に誇れる宝物の風景だと気づかなかったかもしれません。人が生きるのに豊かさは必要ですが、際限無い利便性を求めた結果が今回の事故につながったと考えるなら、どこかでライフスタイルを変えていかなくてはなりません」。
川内村の遠藤村長の言葉。
「川内村でそれが試されているような気がしてなりません」と結ぶ。
村の大方は「帰村」出来るのもかかわらず、戻った人は20%。人口3千人だったのが、今村で暮らす人は500人余り。戻らない人の多くが仮設や借り上げで暮らす。
避難している人たちが暮らすのは郡山やいわき市。いわば福島県の“都会”。
「戻らない理由は原発が安定していないことや線量への不安もありますが、生活の利便性を知ったことが大きいでしょうね」と村長は現状を冷静に分析する。
買い物、学校、病院。夜間の救急病院。
「村ではインフラ整備を進め、診療所の科目も増やし、大手コンビニもでき、2年後には特別養護老人ホームも出来る。でも、都会の魅力には到底かないません」と。
豊かな自然と、豊かで便利な生活。どちらを“選択”するのか。一つの断面から見た日本の“縮図”としての川内村。
「3・11」の前の3月8日は塾だった。その時選んだテーマは「豊かさがもたらしたもの、便利さがもたらしたもの」。
便利になったものはという問いに大方の塾生は「携帯電話」と答えた。
携帯電話はいつしかスマホと呼ばれるものになり、それ一台で様々な事が可能になった。その便利さが何をもたらしているのか。
ネットショッピングによる日常のコミュニケーションから遠ざかり、LINEによる「いじめ」、個人情法の漏えい。ゲームという“ひきこもり”、アプリという名の多額の“出費”。歩きスマホなるものによる事故・・・。マイナス点を列挙すればきりが無い。
人間は一度手にした「便利なもの」を手放せない。
戦後数十年間、日本人は、その英知も結集して、豊かさと追い求め、便利であることに歓びを感じてきた。
「スピード」もそうだ。リニアカーの話題に湧く世相を見ていると、どこか悲しい。東京・名古屋40分が何をもたらすのか。
それら便利なもの、豊かな生活を支えているのは「電気」だということ。
原発は人間の“欲望”の果てに生またものだということ。
この時紹介したのが夏目漱石の言葉。
「人間の不安は科学の発展からくる。進んで止まることを知らない科学は、かって我々に止まることを許してくれたことはない」。
川内村の村長の話や夏目漱石の言葉をどう受け止めるかはそれぞれの人のいわば“価値観”。
しかし、「3・11」が、今を生きる人たちに与えてくれた「教訓」は、まさに“便利さ”とは何かという事ではなかったか。
京都竜安寺の蹲に刻まれている言葉がある。“記号”のようだが。
「吾唯足るを知る」。
「知足」という言葉。
今の便利な生活を全部捨てて、不便な生活に戻ることは不可能だ。ただ言えることは、「今の生活の中で、必要以上に求めない」ということ。
「新しいものを手に入れるには、何かを捨てなくてはならない」。そんな箴言もある。
何も捨てないでただ求め続けることが何を意味するのか。
今、黒沢明の作品が、にわかに脚光を浴びようとしている。「夢」という映画に始まって。
「夢」という映画の中にあった老人の言葉。
「(電気)あんなものは要らない。人間は便利なものに弱い。便利なものほど いいものだと思って 本当にいいものを捨ててしまう。」
「私たちはできるだけ昔のように自然な暮らし方をしたいと思っている。近頃の人間は自分たちも自然の一部だという事を忘れている。自然あっての人間なのに、その自然を乱暴に弄繰り回す。俺たちはもっといい物ができると思っている。・・・」。
“川内村”で考える・・・。便利な生活ってことを。
2013年9月29日日曜日
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