安倍の祖父、岸信介が吐いた有名なせりふ。「声なき声を聞け」。
官邸が、議事堂が、「安保反対」の声に埋め尽くされ、国の中枢が機能不全のような状態に陥っていた時。
後楽園球場ではプロ野球が開催されていた。巨人戦。球場は大観衆に包まれ、ジャイアンツコールが鳴り響いていた。
それを見たか聞いたかした岸が言った。「あれこそが国民の声だ」。日本の政治に対する「声なき声だ」と。
安保反対という声は国民の声ではなかったのだ。彼にとっては。
早朝、東京オリンピックの開催が決定したというテレビを見ながらふと思い出した過去。
岸信介も「東京オリンピック」招致に懸命だった。戦後からの脱却を旗印に。
その頃安倍晋三は祖父の家で「アンポハンタイ」といいながら家の中を駆け回っていたという。祖父は苦笑していたという。
天真爛漫な“こども”だったのだ。
あれから約半世紀・・・。
再び東京オリンピック開催を願う「声」に背中を押され、祖父も実現させたオリンピック開催を、孫の世代が勝ち取った。悲願を手繰り寄せた。
ブエノスアイレスの地でも、東京の各所でも、決定を喜ぶ歓喜の声が鳴り響いていた。
福島にある「声なき声」は、そこには届いていなかったような。
いえ、オリンピック反対を言っているのではない。
プレゼンテーションの席で安部はこう言い切った。懸案とされている原発問題について。
「汚染水は原発港湾内の0,3キロ平米の範囲内で完全にブロックされている。問題は無い」。
問題が無いのなら、なぜ、いわきの漁民は出漁出来ないのだ。漁師たちの、「ささやかな願い」も、オリンピック歓迎の声にかき消されている。
オリンピック招致の場で、安全宣言をする首相。国内にむけてこんなことを断言したことはあったか。
食品の安宣基準も水の安全基準もWHOの基準にてらして、500分の一だと言い、被ばく線量も基準の100分の一だという。
言いだしたのは最近のこと。政府が。
竹田招致委員会の委員長は距離を持ち出す。東京と福島は250キロ離れているから安全だ。
猪瀬は言う。「ネガティブキャンペーンと風評が悪い」と。
誰かは距離で語り、誰かは風評で語る。
IOCは民間団体だ。しかし、そこでの発言は、国際公約に等しい。現実が、安部のいうことと違っていたら、それをどう説明するのか。
汚染水の「実態」は、おそらく誰もわかっていない。遮水壁や凍土方式で止められるのか。現場の作業員のほとんどが疑問視している。いや、不可能だとさえ言っている。
声なき声の質や内容、ありようは変わった。
漁民の声、作業員の声。それが、本当の意味での「声なき声」。
意地悪く言う。安部の言った「ブロックされている」。それは「福島」をブロックすることを意味しているのではと。
原発避難民に7年後の“希望”は無い。原発避難によるいわゆる災害関連死は、1,500人を超える。その人たちの語られることの無い、文字通り「声なき声」。
誰の耳にも届かない。死者の声は・・・・。
招致決定に歓喜の声をあげている人たちの中に、いささかでも「福島」の実情に思いをいたしてくれた人がどれほどいただろうか・・・。
弱い声は、いつの世でも、かき消されていく・・・。
せめて、せめて、オリンピックまでに、何らかの改善措置や、いささかの安心感でも取り戻せるようになってくれることを祈るのみだが。
腰痛悪化。激しい頭痛まで。また書く。
2013年9月8日日曜日
“チェルノブイリ”異聞
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