ここにも数回書いた。塾でも数回話をした「空気の研究」。山本七平の著作。
難解な文章ではあった。しかし読めば読むほど「味」があった。
若い時の愛読書。今、書店にあるかどうかはわからないが。
オリンピック東京開催。その「歓び」を興奮して伝えるテレビを見ていると、この本は現代人の必読書だとあらためて思えてくる。
空気は誰が作るのか。人か時代か。
テレビを見ていると、今度のオリンピック招致に、いささかの疑念を持っていた人たちは、「自分が間違っていたのじゃないか」という“錯覚”に捉われる。
これだけ多くの国民が涙を流して喜んでいることに、疑念を持つのはおかしいのではないかと。
それにしても驚いた。NHKの現地記者レポート。
「大方の予想を覆し、マドリードは落選」。大方の予想ってなんだい。
君達が勝手に言っていたこと。予想を強要する本社。
「東京に決まったのは安倍首相がきっぱりと“安全宣言”をしたことです」。
なんだい、官邸の広報かい。とにかくNHKのニュース報道はおかしい。明らかに権力に媚びている。
番組では、まともなことをやっているのに。局としてのバランスか。
安倍の“安全宣言”に内容は“ウソ”である。事実と異なる。それを、もし、信じ込んだとすればIOCなるものの、「何も知らない」ということに驚くばかりだ。
元に戻そう。話を。
大勢に身を置くことは楽だ。そこに身を置いていることは「安心感」さえも伴い。みんなと一緒。
かつて大勢順応という言葉もあった。
空気は世論なのか。世論が空気なのか。
多くの人が、面倒だといって思考停止状態に陥り、他言を以って自分の考えとし、群集心理の中に浸る。そこにある一種の「愉悦」。
山本七平のいう「空気」。その舞台は太平洋戦争前後のこの国を覆っていた空気のことだった。その空気に皆が浸食され、あらがうことは出来なかった。しなかった。
戦争とは平和の対極にあることだ。しかし、平和の祭典、スポーツの祭典にも「空気」の支配を感じる。
それは何よりも、政治と欲がそれに大きく関与しているという意味で。
東京オリンピックの成功のためには「東京を守ればいい」という思考につながらないか。不安分子である「福島」は“おのれの勘定にいれなければ”いいという思想につながらないか。現状維持で止めおけばいい。とにかくオリンピック成功に向けてひた走ればいい・・・。
オリンピック出場の選手たちがプレゼンテーションに起用された。彼らは、彼女たちは立派だった。使命を果たした。パラリンピックの選手にしても然り。
招致が決まって泣いていた。それはそうだ。しかし、ひとつだけ引っかかることがある。「なぜ東京でなくてはならなかったのか」。
前回のロンドン五輪。金メダリストたちはこぞって被災地の応援にかけつけてくれた。競技場に「東北」とう字を高々と掲げてくれた。
アスリートたちは「無垢」だと信じている。
だから、開催場所がどこでもいい。オリンピックが行われる会場で、本領を発揮する。与えられた場所で。
どこで行われてもオリンピックはオリンピックなのだ。夢の祭典なのだ。平和の祭典なのだ。
なぜ、「場所」でこれだけ大騒ぎになるのか。
いま、日本は、オリンピックに、開催に向けてうつつをぬかすような状況なのだろうか。
選手たちの「無垢な気持ち」を政治が利用しているように思える。
戦時下の在りようもそうだった。戦意高揚にスポーツ選手や、俳優が、「慰問」と称して数多く派遣されていたということ。
あるオリンピックの金メダリストの言葉が忘れられない。最近のことだ。
「自分はたまたま、もちろん誰にも負けないくらい努力して、トレーニングをして、出場の機会を得ることが出来た。悲願であり、夢でもあった金メダルをとれた。100人選手がいる中でのたった一人の勝者である。ボクの後ろには99人の敗者がいる。その敗者のことを忘れてはいけない」。
我々は一昨年、多くの死者を知った。今なお、仮設暮らしも含めて、震災関連死が続いている。我々は、そう、東京にいる人たちは思わないかもしれないが、多くの死者に生かされている命なんだという思いがある。
一人の生者と99人の死者と置き換えてみてもいい。
2011年3月が、この国の歴史であるということすら忘れてしまっているような、テレビが映し出すこの国の「光景」。
それが「空気」となって蔓延していく・・・。
経験で語る愚者の立場にボクは立つ。
2013年9月9日月曜日
“チェルノブイリ”異聞
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