「人間はな、辛いことや苦しいことがあると、逃げることを考えるんだよな。逃げても誰からも責められない。逃げると楽になる。
でもな、一回逃げると言う楽を味わうと、二回、三回・・・。ずっと逃げ続ける。何かがあると。一生逃げ続けるのかい。人生の終末を迎えて時、きっと後悔すると思うぞ。逃げ続けてきた人生を。だからな、逃げている時に、それに気付いた時、いっかい逃げることをやめてみないか。立ち止ったみないか。向き合ってみないか」。
山田太一のドラマだったか、倉本聡のドラマだったか、そんなセリフがあったのを覚えている。
数日前、一見でお越しになったお客さまが、当からから亭に来られた方が“逃げる”という言葉を、悩みの一つとして書かれていた。それに触発されて思い出したドラマのセリフ。
半日以上かかって、本になっているドラマの脚本を、彼らの作品のほとんどを持っているのだが、持っていたのだが、黄ばんだ紙のなかにそのセリフのページを見つけることが出来なかった。正確なセリフを引用したかったのだが、うろおぼえの記述になってしまった。
「3・11」があって、「逃げる」という言葉が、さまざまな意味で多用され、その言葉をめぐってすら対立を生み、また、その必要性も言われ、言葉だけが独り歩きを始めたような。
津波が襲来した。皆、逃げろといい、逃げた。当然のことだ。逃げること以外に身を守る手段は無い。正しい選択としての「逃げる」。
原発が事故を起こした直後、「水が無ければ原発は爆発する、終わりだ」。それに知悉していた作業員は、避難指示が出る前に、一家をあげて逃げた。逃げて四国にまで行った。
東京にいた長淵剛は沖縄に「逃げた」。逃げている自分に気づいて戻った。被災地の激励慰問に励んだ。と言われている。
原発メルトダウン。時の政府は「逃げた」。居場所を変えたということではなく、目の前の現実を直視し、有効な対策をとることから「逃げ」た。
情報を隠すという「逃げ」をうった。
東電本社は全員退避という「逃げ」を選択しようとした。
1Fの所長は、その場に立ち止り、残った作業員とともに、惨事の拡大を防ごうとした。
強制的に「逃げる」ことを強いられた人達。その人達は例えば仮設を逃げ場所にして暮らしている。流浪の民を強いられている。
見てみないふり。それも逃げだ。
現実から目を背けることも逃げだ。
それを責めるだけでは何も解決しない。
除染、帰還・・・。そのループも、決して解決には向かわない「逃げ」の範疇化もしれない。
自主避難者に浴びせられることもある「逃げた」「逃げない」の応酬。
避難している人たちに対する支援。その延長線に浮かぶ強者と弱者の論理。
帰還を目指す。立ち止る。それは自立への道。
「支援から自立へ」。「支援と自立」。4年目の中にあって、思考の根幹に据えなくてはならない、答えを見つけにくい課題。しかし、自立と言う思考の中には、対等、共有と言う発想も生まれるかもしれない。
平易な言葉だが大きな意味を持つ「逃げる」ということ。その多様性。
今も、我々は「逃げる」という言葉の“支配下”に置かれているようだ。
何かから、現実から、逃げている人もいる。逃げようとしている人もいる。
逃げていないと思っている人もいる。逃げることを止めようとしている人もいる。
「逃げる」。むずかしい言葉だ。
ボクだって逃げようとしているのかもしれない。いや、逃げて来たのかもしれない。書くと言うことを隠れ蓑にして、自分の心の中にある“ワダカマリ”から逃避しようとしているのかもしれない。
「書く」という作業から逃げ出したくなる。そんな“誘惑”に負けそうな時があることも含めて・・・。
2014年3月23日日曜日
“チェルノブイリ”異聞
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