凄い風だった。強風だった。今もその余韻が残っている。
風はどこにでも“平等”に吹く。
鉄筋コンクリートで建てられ、大きな外壁に覆われた家にも、木造家屋にも、仮設にも。
落ち葉を拾い集めていくような時も、土台だけがむき出しのかってそこに家があったところに、ただ砂塵だけを巻き上げるようにして。
クレーンが林立している原発事故現場にも。
だれも防げない、誰もとめられない。
夜半、風の音を聞きながら、防ぎようも無い気ままな風に半ば怯えるようになりながら、ボブディランの音楽が浮かんできていた。
「風に吹かれて」。Blowin' In The Wind。
なぜかこの頃、昔の音楽が懐かしい、いや、恋しい。きっと年齢のせいかもしれない。
風の轟音に注意力を妨げられながらも、フィギアスケートのエキシビションを観ていた。
浅田真央が使った曲。サッチモのWhat a Wonderful World.
1960年代後半にヒットした曲だ。その頃の”映像“が浮かび、たまらない気分になる。そう、もしかしたら、あの頃は「ワンダフルワールド」があると信じていたからかもしれない。
でも、ワンダフルワールドは無いんだろうな。世界の終わりとハードボイルドワンダーランドはあるかもしれないが。
♪風に吹かれて♪。
どれほど人は見上げねばならぬのか
ほんとの空をみるために
どれほど多くの耳を持たねばならぬのか
他人の叫びを聞けるために
どれほど多くの人が死なねばならぬのか
死が無益だと知るために
その答えは 風に吹かれて
誰にもつかめない
訳詩の一部。そして、“誰もつかめない答え”について、ボブディランはこんなコメントを残している。
「答えは風の中で吹かれているということだ。答えは本にも載ってないし、映画やテレビや討論会を見ても分からない。風の中にあるんだ、しかも風に吹かれちまっている」。
以前、昔、テレビについて語り合い、書いていた頃。こんなことを言って覚えがある。
「テレビはテクノロジーの進歩によって、リアルタイムを獲得した。そして感性に訴える報道に傾斜した。現象面だけを追い、ジャーナリズムとして機能しなくなっている」。
もちろん、デジタルなんて言葉が出てくるずっと前のもの。それは笑えるくらいに同じ状況だということ。
豊かな国、飽食の国、安全、安心な国、大量消費を促す国。使い捨てになった国、物を大事にしなくなった国・・・。
そんな「風」を巻き起こしているのは、ボブディランの頃も然り、今も然り。
ワンダフルワールドへの“エクソダス”も不可能だ。
風化・・・。そう、風が運んで行ってくれればいい。テレビが風化させてくれればいい。金持ち目当ての“現象面”だけ追ってくれればいい。貧乏人を笑いの的にすればいい。なまじっか、正義面して“同情”してくれなくてもいい。
金持ちによる、金持ちの、金持ちのためのテレビなんだから。
「風の影響で、予定されていたAKBの大イベントが中止になりました」。それがニュースなんだね・・・。
ほんと、なんだろう。今、世間に吹いている風の正体は。
普段はほとんど読まない地元紙。たまたま手にした今日の地元紙。特集企画。
風化が進み、風評被害は改善されず。「復興」の影。サブ見出しにはこうあった。「風に惑う」と。
だったら「新しい風」でも起こしてみてよ。テレビと同じじゃないか。現象面だけ追いかけているってことで。
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