尊く厳かで、おかしがたいこと。「尊厳」という言葉を辞書でひくとこうある。今、その言葉に求めている”意味“と“解釈”に乖離を感じる。“舟を編んではいない”ような。言葉の“不自由さ”かもしれない。
尊厳とは、人間の尊厳とは、矜持とも考えたい。人間が人間である証とも位置付けたい。
例えば欧米では騎士道であり、日本では武士道であろうか。精神論としては。いや、それも違うな。
2011年、避難所のビッグパレトに行っていた時、はじめてそこの光景を見た時、最初に頭に浮かんだ言葉は「ここには人間の尊厳が無い」「人間の尊厳が失われてしまっている」。そんな思いだった。
酷な言葉だが、そこに居る人たちは、狭い寝る場所と、ただ配給の食事を黙った待つ人たち。そこはまるで「収容所」のように見え、昼間から横たわっているしかない人たちは「生ける屍」のようにも思えた。全くの「当事者」でない自分には。
そんな中でも、尊厳と絶やさず毅然として生活していた人たちがいる。
一つの例だ。東電の清水社長がお詫びに訪れた。各スペースを回り頭を床にこすらんばかりにして。それが本心だたかどうかはともかく。
富岡の桜並木の写真を手元に置いていた老婦人が言った。
「どうぞ、お手をお上げください。仕方ないです。お互い様ですから」と。
うたれた。
まもなく丸3年となる。仮設には多くの人がいる。災害公営住宅なんてまだ2%、たった2%しか完成してない。
仮設のいる人達の中には、尊厳を失っていく人たちもいる。災害関連死の中には自死だって含まれる。その多くは働き盛りの年齢。
長くは語りたくない。一言で言う。つまり、原発事故は、いや、そもそも原発そのものが人間の尊厳を奪う、奪ったものだったと。
尊厳死ということが盛んに話題になっていた。もちろん、ボクも「尊厳死」を願う。かろうじて息はしている。しかし、意思表示はまったく出来ない。そんな死にざまは嫌だ。最期の一言を発して死にたい。
尊厳死は「社会的問題」として語られてきた。しかし、「尊厳生」については語られない。
あちこちで、住居だけの問題では無く、さんざまな事で尊厳が傷つけられ、犯され、逆にそれを放棄し・・・。
その一つがカネをめぐる問題だ。賠償金、保証金、補助金・・・。たしかに「金」以外には“解決”の手段はないのだろう。でも、嫌だと思う。
社会の慣例に従っていくなら、たしかにそうしているが、葬儀に香典を持って行くのが嫌だ。いつも躊躇する。カネで死者は悼めないと感情論があるから。
「ふるさとを消失する」。それも尊厳を損なうこととしてある。
先日、テレビで同時通訳の人の話をやっていた。福島市で開かれた欧米の学者や研究者を集めてのシンポジウム。基調講演だったか。浪江の馬場町長が話をした。事前にそのレジメを渡されていたその同時通訳の女性は、前の晩、「ふるさと」をどう通訳するかについて悩んでいた。
当日馬場町長はたしかに「ふるさと再生に向けて」と言っていた。その通訳された英語は覚えていない。ふるさとはそのまま訳せばhomeである。でもその通訳の人は、そのhome, homesでは意を尽くせないと考えていたから。
「馬場町長、ちょっと長く意訳させていただきますがお許しください」そう断った上で、こんな喩を持ち出してはどうかなと思った。
「アメリカ民謡にフォスターの名曲があります。My Old Kentucky Home
という歌が。皆さんご存知でしょう。日本では懐かしきケンタキー我が家と呼ばれ、皆、知っています。The sun shines bright in my old Kentucky home this summer the darkies are gay。
あの歌にある光景が“ふるさと”なんです。
そして付け加えます。そこは“尊厳を持って生きられる場所”ということです
同時通訳としてはルール違反だろう。しかし、「ふるさと」という概念、それを失った人たちのことを分かってもらうにはそんな“技”もありだと。
故郷喪失は尊厳喪失につながることだと。テレビを見ながら。勝手な思いなんだけど・・・。
2014年3月5日水曜日
“チェルノブイリ”異聞
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