2012年の5月のある日、東京駅発の東北新幹線、やまびこ634号は新白河駅の手前で、突然停車を求められる。数百人の子供たちが、停車を命じた。
そして入国審査官の少年が、乗客一人一人にパスポートの提示を求めた。
そう、この日の午前0時を以て、ふくしま国は独立を宣言したのだ。日本国からの。日本という国の中に新しい国が誕生した。人口200万人弱、面積一万4千平方キロ弱。
午前8時、日本国によって作られた原子力発電所の大爆発によって放出された、放射線の被害から避難した人たちが住む仮設住宅。その仮設前の広場でデューク東郷という古老が独立宣言を読み上げた。
その演説は子供たちが作ったインターネット回線に乗り、日本中に届けられた。
「我々、ふくしまの地に住む者たちは、長年にわたって国策というものの犠牲になってきた。農業政策もそうだった。原発政策もそうだった。食料の供給地であり、電力の供給地であった。それにもう激しい怒りを覚える。これ以上犠牲を強いられたくは無い。この大地の上にすっくと立って自らの、自らによる、自らのための国をば作った」と。
インターネットで“独立”を知った、旧福島県出身者や心ある多くの若者が、ネットを通じてパスポートを申請した。
大型バスに乗った若者たちが続々と東北道を北上し、新しい国に来る。その何百台というバスの列が白河の関を通過した後、そこには国境がひかれる。
旧来の県知事や役人はすべて放逐される。新しい大統領を選ぶ。しかし、その大統領の名は明かさない。いわなき誹謗から守るために。
憲法も制定される。日本国憲法にあった国民の権利を国家の義務に変える。義務に違反した公務員は厳罰に処される。
自給自足を旨とし、地熱発電で電気を作り、自然の恵みに感謝し、国家の目標をアジアにあるブータン国とする。
カフカと呼ばれる少年がその作業にあたっている。新しい国家像を作っている・・・。
夢想譚です。
きのうの塾で「東北」について、その地名や方言について話ました。その引き合いに出したのが井上ひさしの「吉里吉里人」。
この夢想譚は、この吉里吉里人による吉里吉里国独立をパクったものです。
井上ひさしの小説は、ユートピアを目指したいわばパロディーのような小説。
でもパロディーだからこそ、そこに“真実”が見える場合もあるのです。
宮沢賢治もユートピアを追い求めていました。
日本国の属県である福島県よりも、独立国「ふくしま」の方が夢があるかも。
希望があるかも。
古老デューク東郷は演説の中で若者に“希望”を託します。
カフカという少年。カフカとはチェコ語でカラスという意味です。今朝もカラスは人家の屋根にとまって、何かを考えているようでした。
2012年5月9日水曜日
“チェルノブイリ”異聞
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