その詩に出合ったのは中学生の時だった。なぜか魅かれた。毎日のように書き写し、覚えた。確たる理由もなかったが。
いつか忘れていた。それを、あの、「3・11」以降、しばらくしてから机の上に置き、毎日のように読んでいる。「3・11」後のこの国を語るのにこれ以上の詩は無いとも思えるから。
その詩とは、宮沢賢治の「雨にも負けず」。
くどいようだが、その詩を書く。自分のためにも。
雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫なからだをもち
慾はなく
決して怒らず
いつも静かに笑っている
一日に玄米四合と
味噌と少しの野菜を食べ
あらゆることを
自分を勘定に入れずに
よく見聞きし分かり
そして忘れず
野原の松の林の陰の
小さな萱ぶきの小屋にいて
東に病気の子供あれば
行って看病してやり
西に疲れた母あれば
行ってその稲の束を負い
南に死にそうな人あれば
行ってこわがらなくてもいいといい
北に喧嘩や訴訟があれば
つまらないからやめろといい
日照りの時は涙を流し
寒さの夏はおろおろ歩き
みんなにでくのぼーと呼ばれ
褒められもせず
苦にもされず
そういうものに
わたしはなりたい
「東北」を「東北人」を語りつくしている。そして、賢治が生きた時代の事ではなく、今への強いメッセージが含まれていると思うから。
「よく見聞きし、分かり、そして忘れず」。
年が明けた。新しい年を迎えた。東北を福島をどんな言葉で語られるのか。語り続けられる言葉もあり、新しい言葉が生まれるかもしれない。
たぶん、「風化」という事が、現象が進んで行くだろう。それに抗するのは「分かり、忘れず」なのだ。風化とは忘れることなのだから。
「無人地帯」というドキュメンタリー映画を撮った監督の、この作品が、4年になる今年、劇場で公開される。そのポスターに彼は書いていた。
「福島を忘れない。福島は忘れない」と。
去年から今年への不連続の連続。昨日書いた陽水について、また・・・。
氷の世界の後、彼はどこかで宮沢賢治の詩に出合ったらしい。音楽家の感性は賢治の世界に注がれた。「雨にも負けず」の詩を、彼なりに解釈し、メロディーをつけて曲に仕上げた。曲名は「ワカンナイ」。
雨にも風にも負けないでね
暑さや寒さに勝ちつづけて
一日 すこしのパンとミルクだけで
カヤブキ屋根まで届く
電波を受けながら暮らせるかい?
南に貧しい子供が居る
東に病気の大人が泣く
今すぐそこまで行って夢を与え
未来の事ならなにも
心配するなと言えそうかい?
君の言葉は誰にもワカンナイ
君の静かな願いもワカンナイ
望むかたちが決まればつまんない
君の時代が今ではワカンナイ
日照りの都会を哀れんでも
流れる涙でうるおしても
誰にもほめられもせず 苦にもされず
まわりの人からいつも
デクノボウと呼ばれても笑えるかい?
君の言葉は誰にもワカンナイ
慎み深い願いもワカンナイ
明日の答えがわかればつまんない
君の時代のことまでワカンナイ
賢治に傾倒していた少年は、大人になって陽水に歌に共感していた。そして、また賢治に回帰している。
東北に暮らしているから賢治に共感し、都会に暮らしていた時は陽水に同感していた。そういう話ではないのだが。
賢治の詩の最後。「そういうものに私はなりたい」。それは彼自身の“覚悟”でると同時に、今に向けてのメッセージ、呼びかけではなかったのかと勝手に解釈する。「そういう人になってください」という。
そして、陽水は賢治に“反論”しているのでは無く、共通項も見てとれるのだ。
今・・・。
経済成長、豊かさ、便利なもの。科学技術の進歩。それらを持つことを可能にした一つが“原発”。そんな時代を語り合っているようにも聞こえる。
陽水の「ワカンナイ」という言葉。それはすなわち、今のこの国の有り様であり、この国の将来のことでもあろうかと。
年頭妄言。今年もよろしく御贔屓にお願いします。
2014年1月1日水曜日
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