3・11前後。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の「これからの正義の話をしよう」~今を生き延びるための哲学~という本やテレビでの白熱教室が話題になった。
災後来日したサンデル教授の白熱教室は、東大や東北大学でも行われた。学生に交じって真剣に議論を交わす古川日出男という郡山出身の作家の姿もあった。
災後に書かれた震災文学「馬たちよ、それでも光は無垢で」、さらに「ドッグマザー」。何かを得ようと読んだ記憶がある。
今年の3月11日。東日本大震災の追悼式典で、遺族代表の一人として話をした宮城県石巻市の菅原彩加さんという人がいる。彼女が語った当時のこと。
「津波が一瞬にして私たち家族5人をのみ込みました。しばらく流されたあと、私は運よく瓦礫の山の上に流れ着きました。その時、足下から私の名前を呼ぶ声が聞こえ、かき分けてみると釘や木がささり足は折れ、変わり果てた母の姿がありました。
右足が挟まって抜けず、瓦礫をよけようと頑張りましたが、私一人の力ではどうにもならないほどの重さ、大きさでした。
母の事を助けたいけれど、ここにいたら私も流されてしまう。“行かないで”という母に私は“ありがとう、大好きだよ”と伝え、近くにあった小学校へと泳いで渡り、一夜を明かしました。
そんな体験から今日で4年目。あっという間で、そして長い4年間でした。家族を思って泣いた日は数えきれないほどあったし、15歳だった私には受け入れられないような悲しみがたくさんありました。
震災で甚大な被害を受けたにもかかわらず、東北にはたくさんの笑顔があります。
震災で失った物はもう戻ってくることはありません。悲しいが消えることも無いと思います。前向きに頑張っていくことこそが、亡くなった家族への恩返しだと思い、失ったものと同じくらいのものを人生を通して得ていけるように、しっかり前を向いて生きていきたいと思います」。
この言葉を聞いていて、サンデル教授の白熱教室であった“例示”を思い出していた。
暴走列車の話しだ。
路面電車が疾走している。あなたはその運転士だ。ブレーキがきかなくなった。前には5人の人が作業している。このままだと5人を殺してしまう。待避線がある。作業員は1人だけだ。待避線に入って一人を殺すのか、そのまま5人をはねるのか・・・。
この例示に正解は無い。道徳的な板挟みの中でどうするかという提示だ。難解な哲学的提示だった。たしかに正義とは何かを問われる問題提起だった。
奇しくも、以前も借りた立教新座高校の校長が、あの年の新入生に対してこんな話をしている。
「命二つ」という話だ。
「命二つ中に生きたる桜かな」。芭蕉の句を引いての話しだ。
“この句の解釈は、20年余りも会うことのなかった友人二人が、命あって再会することが出来た。その喜びの中に桜がいきいきと咲いているということになりでしょう。私たちは命を自分一人のものと考えがちです。それを芭蕉は命二つときりだしたのです。命は自分一人のものですが、一人で支えているものではありません。単数では無く、複数の命によって支えられているのです。他者の存在なしに、命はありません。
親、友人、もう一つの命に支えられ、命二つの中で生きているのです。自分にとってかけがえのない命は、相手にとってもかけがえのない命なのです。
命二つと考えることは、相手の心に近づき、自分の身を相手に重ねることなのです・・・」。
命二つ。それは彩加さんとお母さんの関係そのものだとも思う。彩加さんは命二つの世界に生きているのだなと。
4年間、葛藤しつづけた自分の気持ちに整理がついたからこそ、あのスピーチが生まれたのだろう。
今日は全くの春の陽気だ。その陽気に誘われて、命の芽吹きが始まる。命と言うこと、生きると言うこと。もう一回考えてみてもよいのではと思い。
2015年3月17日火曜日
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