2011年4月2日土曜日

倚りかからず

もはや
いかなる権威にも倚(よ)りかかりたくない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足で立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

茨木のり子さんの詩。昨年亡くなった。彼女の卓越した、研ぎ澄まされた感性は、今の、この国を詠んでいるかのような。

人災であることが明々白々になった東電の原発事故。いまだ汚染された大気を吸って死んだ人は出ていない。放射性物質によって死者は出ていない。
しかしー。人の口から排出された言葉は人を殺す。殺す一歩手前まで行く。例えその言葉が善意から発せられたものだとしても、ちょっとしたミズが命取りにもなりかねない。

原子力の権威。IAEA。国際原子力機関。飯舘村の土壌汚染が国際基準値を避難基準の2倍にあたると発表した。先日。きのう訂正。土壌15サンプルを分析した結果7メガベクレルだったと。基準は10メガベクレル。

飯舘村の酪農家や野菜農家は真剣に自殺を考えたという。そう言って来た。村長の「村はおれが守る」と言った一言で思いとどまったという。
NHKに声で出演した村長は「NHKさんはじめテレビ局の人は冷静に伝えてください」と訴えた。NHKの夜9時のキャスターはしどろもどろのスタジオ。

IAEAの発表。鬼の首でも取っような大きな報道、扱い。そして訂正。繰り返す。IAEAは国際的な原子力の権威である。

天栄村の牛から基準値を超える放射性要素が見つかったと、これまた、大々的に報じる。天栄村は原発から100キロ近く離れた南西部。どう考えても放射性物質が飛散していく地域ではない。肉を採取した日にちと水素爆発で放射線がまき散らされた日との関連性が無い。少なくとも福島県の地図さえみればわかること。

国民の健康を扱う国家の権威、厚生労働省の発表。疑いもせずに飛びつき報道するメディア。小さな村としては死活問題。
翌日、厚生労働省は数値訂正。問題無しと。調査ミスを指摘する、結果を報道するマスコミの扱いのなんと小さく少ないことか。

天栄村の農産物は危険。第一報はすでに日本中に拡散されてしまっている。兼子村長は政府に抗議した。それを報じる紙面。ベタの数行・・・。

何を信じればいいのか。疑心暗鬼に陥った国家。
茨木のり子さんの声が聞こえてくるようだ。

いかなる権威にも倚りかかりたくはない。

菅が被災地を視察した。ヘリで来てヘリで帰り。避難所の被災者の女性の声。「来るのはいいけど、なんで会場を綺麗にしてください、とか、車を整理してくださいとかいうの。なんで、この大変な時に体裁をつくらなければいけないの、ふに落ちない」。

この女性の声が茨木のり子さんの声のように聞こえた。

大地震大津波から三週間後。自衛隊と米軍との大がかりな捜索。気仙沼沖で漂流物に乗っていた犬が救助された。

犬が倚りかかっていたのは椅子の背もたれならぬ屋根だった。4本の足でしっかり立って。波間に漂いながら・・・・。

“チェルノブイリ”異聞

  ロシアがウクライナに侵攻し、またも多くの市民、日常が奪われて行く。 ウクライナという言葉、キエフという言葉、チェルノブイリ・・・。 そう、あの最大の原発事故を起こした地名の幾つか。 「チェルノブイリ原発事故」。1986年4月26日。 ウクライナの北部にあるその...