佐藤春夫の歌を思い出す。秋刀魚の歌。
あはれ 秋風よ 情け(こころ)あらば伝えてよ
男ありて きょうの夕餉に ひとりサンマを食らひて
思いにふけるかと。
秋刀魚は「季語」であり、庶民生活の「代名詞」だった。
子供の頃、ラジオから、毎日のように秋刀魚の歌が流れていた。
♪安くて美味いよさんま、いつでも美味しいさんま、さんま~~さんま♪
なぜか秋刀魚と戦後がだぶる。小津安二郎監督の映画「秋刀魚の味」も戦後の日本を舞台に、“戦争”を問うた作品だった。
あの頃、戦後が始まってから。日本の食卓は秋になるとさんま一色だった。
七輪で炭をおこし、網に乗せた秋刀魚を焼く。あたりかまわず煙、煙。
貴重なタンパク源だったのかも。
当方の海は秋刀魚の宝庫だった。いくらでも獲れた。だから安かったのだろう。
不漁の時はいきなり高嶺の花に変身した時もあったが・・。
きのう、東京の日比谷公園では「女川のさんま祭り」が開かれていた。産地直送、その数6万尾。テレビで見る映像は、まさに日比谷公園の火炎瓶が投げられたような煙の渦。そして芳しい香りが満ちていたのだろう。
炭火で焼いているのだから。
男が一人夕餉に食う秋刀魚ではない、大勢で食う秋刀魚。会場に訪れた人は21万人だったとか。
東京都が女川の震災瓦礫処理を6万トン引き受けてくれたお礼のイベントだったとか。
発案した人、仕掛けた人、携わった人・・・。
いいよね、こういうイベント。採算度外視のイベント。
そして何よりも旬の味。流通を経ていない産地直送。
つられて、昨夜の夕餉は「秋刀魚」。炭火焼ではなかったけれど(笑)。
どうも、まだ、いわき沖でのサンマ漁はおこなわれていない様子。もう少し、南下を待たねばならないとか。
日比谷公園の立ちのぼる煙に、女川の“復興”をちょっとだけ見た思い。
“災後”の代名詞の一つも秋刀魚かな。「思い」が魚の味に、もう一つ「うまみ」を加える。
さんま刺し。秋刀魚の刺身。福島に来て初めて知った食べ方だった。いわきでそれを味わった。格別の味がした。それを思い出していた。
秋刀魚の季節本格到来ですよ。