それぞれの人が、それぞれの記憶を刻んだ一年。それぞれの歴史が作られた一年。一瞬の時をまたいで、それは、新しい年となった。
この一年は何だったのか。昨夜、扉が問いかけてきた。時の扉が。
答えを探したー。
「いろいろ考えた一年でした」と答える。「いろいろとは何だ」。扉の問いは鋭い。
「何も変わらなかった一年でした」と答えてみる。「変わらないのはキミが変わろうとしなかったからではないか」。扉の問いに容赦はない。
「新しい年に向かう扉を開けてもいいですか」と扉に聞く。
「開けてごらん。何か見えるかな」。
恐る恐る扉を押す。音も無く開いた扉。
そこには霧しか見えない・・・。
夢の中の“扉”との会話。まどろむボクにまとわりついていた霧。霧が耳もとで囁いていた。
「キミは眠ってなんかいない。いや、寝てはいけないのだ。私の中を見てごらん」。問いかけは執拗だ。
見えないものを見ようとする。見るべきものを見て来なかったボクへの叱責。
でも、見えない。見えないから考える。そこにあるのは絶望だろうか、希望だろうかと。
そう、僕たちは一年前も、扉の向こうに希望があると願った。そして希望を探した。でも、何も変わっていなかった・・・。
見つけられなかった希望。では、そこにあったのは絶望か。希望も絶望も時が決めるものではない。人が決めるものだ。
霧の中に絶望しか見えなかったとしても、それを凝視しよう。眼力(めじから)を持って見つめれば、霧の中に一条の灯りが、希望と言う明かりが見えてくるかもしれない。霧の中に、扉に吸い込まれるように、踏み出す一歩・・・。
たった一晩で、暦が替わり、去年(こぞ)今年となることへの違和感は今も消えない。
あの日は、一瞬にして来て、一瞬にして多くのものを変えていったのに。
今年も何やら書き綴っていきます。日替わりメニューの“定食”のように。お客様各位のご交誼、よろしくお願い申し上げます。
亭主謹白にて。