2012年3月11日日曜日

去年のこの日に生まれた「虎」ちゃんへ

平成23年3月11日。去年のこの日。被災三県で約100人の新しい命が誕生している。
本震、余震の中で。迫りくる津波の中で。そして、福島では、数日後には放射能の恐怖がキミたちを襲った。

多くの人の命が失われた中で、新たに誕生した命。母親の恐怖はキミ達に届いているのか。

宮城県仙台市在住としかわからない。新たな命の一人に「瀬川 虎」ちゃんという子がいる。新聞で見た写真。なぜか、不思議に、ボクの子どもの頃によく似ている。瀬川という姓は全国でも少ない。順位でいくと800番台。

同じ姓であっても、虎ちゃんとボクの間には何もつながりはない。係累でももちろん無いし、キミの両親も知らない。

だけど妙にボクはキミの事が気にかかる。写真のキミの顔は不思議そうな表情でレンズを見つめている。レンズに向かって何か問いかけているような。

虎ちゃん、100人の赤ちゃん。満1歳の誕生日おめでとう。キミ達のこれからにはどんな前途が待っているかわからないが、生まれるべくして生まれた、希望の光であり、大きな宿命を持ってこの世に登場した“救い主”かもしれない。

虎ちゃんと見ず知らずのおじさんは、キミに何もしてあげられない。でも、キミの名前は忘れない。

虎ちゃん、そして100人の子供たち。「生まれてきてくれてありがとう」。それぞれのお母さん。「産んでくれてありがとう」。

福島県でも30人の君の“仲間”がいる。そして、君たちに、君たちだけの手作りの椅子を送るというプロジェクトクトもあるという。

椅子は貰ったかい。その椅子は、君が大きくなってからも、座れなくなってからも、君の大きな宝物だ。

きょうはキミ達の誕生日だ。周囲の大人たちを困らせ、甘え、笑わせ、楽しい一日を送るがいい。キミ達の代わりに亡くなった多くの人達のためにも。

キミ達に一つの言葉を贈る。「ひこばえ」。ひこばえとは大きな樹から生まれて来た春の新芽を言う。そして、その樹の根、原点を忘れるなという意味がこめられている。

もう一つ。「ゆずり葉」。老葉が落ちて、若い葉に代わることを言う。ゆずり葉は柏の葉を指すともいう。虎ちゃん、端午の節句には、がんばって、大きな柏餅を食べてね。

西洋のことわざに「銀の匙をくわえて来た赤ん坊は幸せになれる」という言い伝えがある。椅子は作ってあげられないけど、せめておじさんはキミ達に、この文章の上でだけだけど「銀の匙」をプレゼントに贈る。

そして、あらためて、虎ちゃん。ずっと、あのレンズに向けられていた眼(まなこ)で、この世を見ていてね。キミのつぶらな瞳に、よこしまな心を持った大人たちは絶対に負けるから。

そして。一年後の今日も、新たな命が誕生しているはず。

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