3月11日の読売新聞の一面トップは「編集手帳」という、いつもは最下段にあるコラムの拡大版だった。一部を引用する。
「使い慣れた言い回しにも嘘がある。時は流れるという。流れない時もある。雪のように降り積もる。<時計の針が前に進むと“時間”になります。後に進むと“思い出”になります>。寺山修司は“思い出の歴史”と題する詩にそう書いたが、この一年は詩人の定義にあてはまらない異形の歳月であったろう。津波に肉親を奪われ、放射線に故郷を追われた人にとって、震災が思い出に変わることは金輪際あり得ない。復興の遅々たる歩みを思えば、針は前にも進んでいない。今も午後2時46分を指したままである」。
「口にするのも文字にするのも、気の滅入る言葉がある。“絆”である。その心は尊くとも、昔に流行歌ではないが、言葉にすれば嘘に染まる・・・ダンシングオールナイト。
積まれたがれきは、すべての都道府県で少しずつ引き受ける総力戦以外には解決の手だてがないものを、“汚染の危険がゼロではないだろうから”という受け入れ側の拒否反応もあって、がれきの処理は進んでいない。羞恥心を覚えることなく“絆”を語るには、相当に丈夫な神経が要る。人は優しくなったか。賢くなったか。一年という時間が発する問いは二つ」。
「雪下ろしをしないと屋根がもたないように、降り積もった時間の“時下ろし”をしなければ日本という国がもたない。ひたすら被災地の事だけを考えて、ほかのすべてが脳裏から消えた1年前のあの夜に、一人ひとりが立ち返る以外、時計の針を前にすすめるすべはあるまい。この1年に流した一生分の涙をぬぐうのに疲れて、スコップを握る手は重くとも」。
いいコラムだと思う。そして、社説として大上段に振りかぶったものでなく、長文のコラムを一面に組んだという、まさに、言葉を借りるなら、異形の版立てを評価したい。
しかし、あえて言わせてもらう。昔の歌謡曲ではないが、ちょっと待って、ちょっと待って、プレイバック、プレイバック。
使い慣れた言い回しの“嘘”を書いては来なかったのか。“絆”という気の滅入るような言葉を大きな活字で使ってはこなかったのかと。
そして翌3月12日の朝日新聞。一面。「悲しみを抱いて生きていく」。横に大きく抜かれた見出し。
国主催の追悼式典での遺族代表、石巻市の奥田江利子さんの言葉。記事を書いたのは、南三陸日記をいうコラムを書き続けている三浦英之記者。自ら、南三陸支局駐在を願い出て赴任した記者。
彼は、奥田さんを書くことによって、全体像に迫ろうとしたのだろうか。
奥田さんは追悼文の最後を「戻れるなら1年前に戻りたい」としたいと考えていた。しかし、何回も書きなおす中で、「それはいくら願ってもかなわないこと。今は、今の家族を大事にしたいから」。そんな思いで選んだ言葉が「悲しみを抱いて」だった。
「愛する人たちを思う気持ちがある限り、私たちの悲しみは消えることはないでしょう。遺族はその悲しみを一生抱いて生きていくしかありません。だから、涙を超えて強くなるしかありません」。
悲しみは、いくら時間が経っても消えないのだ、解決しないのだ。
悲しみー。一つの言葉を思い出した。「常懐悲感 心遂醒悟」。常に懐に悲しみを抱えていると、やがて自己に目覚め、悟りに近い気持ちになれるというような意味だろうか。法華経にある言葉。
悲感という二文字には、抑圧され、軽視され、屈辱を味わい、断腸の思いをもったやり場の無い怒りという意味が込められている。
まさに悲感の日々が続いていくのだ。
新聞記事。時々読ませるものがある。まだまだ捨てたもんでもないとも。
この話は、昨夜の塾でも使った。塾生各自がどう受け止めたのかはわからないが。
彼らに多少なりとも醒悟の念を与えられたらなと思う。
2012年3月14日水曜日
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