去年の今日、4月5日は忘れられない日である。友人のフルート奏者、佐藤真人とビッグパレットの避難所に慰問演奏に行った日。
数曲吹いた後で、真人が言った。「皆さんからリクエストがあれば・・・」。彼が用意していたリクエスト曲のリストを配った。はい、それは僕の役目でしたから。
それは日ごろ彼が使っているリスト。曲目にあまり留意していなかった。お互いに。
端のほうにいたばあちゃんが手を挙げた。足が悪いらしい。娘さんが付き添っている。
駆けていって曲目を聞いた。「ツナミ」だと。あのサザンの。川内村と富岡町の人たちがいるビッグパレット。富岡の人は津波の被害者もいるかもしれない・・・。
「ツナミ?」って聞き返す。周りの人から反対の声は無い。だけど・・・正直困惑。真人と目配せ。やろうと。歌詞カードを渡した。彼も戸惑いながら吹いた。ツナミを。リクエストしたばあちゃんは、遠くを見るようなまなざしで、涙を流しながらそれを聴いていた。終わると思いっきり手を叩いてくれた。音楽とともに彼女の中で何かが浮かび、何かがはじけ、何かに区切りを付けたのか。長が~~い、手ばたき(郡山弁の拍手)だった。
みんなで大声で歌ったのは♪川のながれのように♪だった。美空ひばりの。
美空ひばり・・・。彼女の名曲「みだれ髪」の碑はいわきの薄磯海岸にある。波はかぶったが無事らしい。
美空ひばりが再晩年に歌ったといわれる曲。一本の鉛筆。広島で歌った歌。
あなたに聞いてもらいたい
あなたに読んでもらいたい
あなたに歌ってもらいたい
あなたに信じてもらいたい
一本の鉛筆があれば
私はあなたへの愛を書く
一本の鉛筆があれば
戦争はいやだと私は書く
戦争を”原発”に置き換えれば・・・。今を歌ったものになる。
ロック歌手の高橋ジョージが被災地の建物の中で歌っていた。そこは多分彼の出生地近く。
宮城県。彼も被災者の家族なのだろうか。
彼の名曲。「ロード」。
ちょうど一年前にこの道を通った夜
昨日の事のように今はっきり想い出す
大雪が降ったせいで車の長い列さ
どこまでも続く赤いテールランプがきれいで
何でもないような事が幸せだったと思う
何でもない夜の事 二度とは戻れない夜
震災の一カ月ほど後、津波で流された自宅の跡で海に向かってトランペットを吹いていた少女がいた。岩手県立大船渡高校3年の佐々木瑠璃さん。津波で母親や祖母を亡くしたという。楽器は祖母が買ってくれたもの。海に向かって吹いた。ザードの「負けないで」を。
鎮魂の曲であると同時に自らを鼓舞する曲だったのだろう。
そして彼女は福島県立医大の看護学科に入学した。もちろん看護師を目指すという。「負けないで」は、一生、彼女を励まし続ける歌なのだろう。
きょうも被災地のどこかで歌がうたわれているはず。歌で励まそうと奔走している人たちもいるはず。
歌の力ってあるんだ。音楽の力ってあるんだ。
去年の今日のあの段ボールハウスの光景を思い出している・・・。そこで体験した多くの物語も。
2012年4月5日木曜日
“チェルノブイリ”異聞
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