一時期、やたら漢詩に凝ったことがありました。表現も人生観も含め、その韻を踏んだ詩が好きで。
誰でも知っている杜甫の句。
春望
国破れて山河あり 城春にして草木深し
時に感じては花にも涙をそそぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり 家書 万金に抵る
白頭掻けば更に短く 渾(すべて)簪に勝えざらんと欲す
唐の時代の中国を詠んだ句ではなく、今のこの国を詠んだ句のように聞こえるのです。
他国から攻め入られたわけでもないけれど、この国は破れたのです。敗れたのです。
自然災害や原発だけでなく。国家として破れているのです。人心も荒廃しているのでしょう。春です。しかし・・・。
桜の季節です。この地も。華やかな桜花にさえ涙を誘われる時がある。
家族との別れが続いている人もいます。
たしかに、群れをなす鳥の羽音にさえ、驚かされるような時すらあります。心が傷みます。
天変地異の前触れかと思う時も。
原子の火の残滓はどうなることやら知れず、もう一年以上も“燃えて”いるようです。
家族からの手紙、たまに行き来するメール。それは万金に値するものとも。
山河は景色としてはあります。未だ雪を戴いた山々。
清流下る川・・・。それらは汚されてしまった。
杜甫の言う山河は無い。
はい、白髪頭は掻くほどに薄くなりました。まったく簪を受け止めるどころか、地肌丸見えのようになり。
杜甫には申し訳ないけど。「とほほ」の日々です。
そして有名な李白。静夜思。
牀前月光を看る
疑うらくは是れ地上の霜かと
頭を挙げて山月を望み
頭を低れて故郷を思う
春です。爛熳の候です。
人の途絶えた町にも、今年も桜はちゃんと咲いた。立ち入り禁止区域の桜。“許可”されたメディアだけが防護服を着ながらそれをカメラに収める光景・・・。
そこに在るものの本来の姿と、その姿を目に焼き付けるのではなく、カメラに収めるという特別な目線。誰にでも平等であったものがそうでなくなったという現実。それが今の、破れたこの国の姿。
今宵の月はいづれの方から出るのでしょうか。雲さえなければ月は誰にでも平等に光を投げかけてくれるのですが。月の光は故郷への思いにつながるのでしょうね。
2012年4月24日火曜日
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