2013年8月17日土曜日

「故郷の廃家」、歌を借りて

帰省ラッシュと言う。鉄道の混み具合を。高速も。きょうがピークだとか。

故郷に帰ることをなぜか帰省という。帰郷とも言う。故郷に帰るということ。

ふるさと・・・。故郷なのか、古里なのか。

昔あった唱歌、故郷の廃屋。原曲はアメリカの民謡だというが。

♪幾年ふるさと来てみれば 咲く花 鳴く鳥 そよぐ風
 門辺の小川のささやきも なれにし昔に 変らねど
 あれたるわが家に 住む人絶えてなく
 昔を語るか そよぐ風 昔をうつすか 澄める水
 朝夕かたみに 手をとりて 遊びし友人 いまいずこ
 さびしき故郷や わびしき我が家や♪

今を歌った唱歌に聞こえる。kokyoun

お盆の季節、多くの人が故郷に向かい、故郷を後にした。今住むところに帰った。

双葉郡大熊町。帰還困難区域。原発から2キロ。その地域では墓参だけが認められた。防護服に身を包んだまま、墓前にぬかずく。
皆一様に言う。「ご先祖さまに申し訳ない」。
帰れぬ我が家を垣間見る。草木の生い茂ったさまをみる。廃屋のようだと言う。

刈り取られずの放置された雑草は、根を生やし、もはや人の手には負えないとも。原野の様相だともその地の人は言う。

人は棲まねど、野生動物たちには格好の棲み家になっているような。

お盆、それぞれのお盆・・・。休みを行楽地で満喫した人たちのお盆。ラッシュに疲れ切った人たちのお盆。

福島の15万人の人たちの“特別”なお盆。来年も再来年も続くであろう“特別”・・・。

今のこの国を、詩を以って語るなら、やはり、茨木のり子だと思う。もちろん「今」を語ったものではないが。
「廃屋」という詩がある。


人が 棲まなくなると 家は たちまちに蚕食される
何者かの手によって待ってました! とばかりに
つるばらは伸び放題 樹々はふてくされていやらしく繁茂
ふしぎなことに柱さえ はや投げの表情だ
頑丈そうにみえた木戸 ひきちぎられあっというまに草ぼうぼう 
温気にむれ 魑魅魍魎をひきつれて何者かの手荒く占拠する気配
戸さえなく吹きさらしの 囲炉裏の在りかのみ それと知られる
山中の廃居 ゆくりなく ゆきあたり 寒気だつ
波の底にかつての関所跡を 見てしまったときのように
人が 家に棲む それは絶えず何者かと 果敢に闘っていることかもしれぬ


人が住んでいるのが家。帰るところが家。棲んでいるから家、終(つい)の棲み家、住み家、だから家。

待っている人がいるから帰ってくるのが家。いってらっしゃいと送られるのが家、ただいまと声をあげ、お帰りなさいと言ってくれる人がいるのが家・・・。

故郷の廃家。それの意味するものは・・・。

きのう帰国という字のことを書いた。「帰る」ということにこだわる。帰るところがありや無しやと。

帰りなんいざ、田園まさに荒れなんとす・・・。中国の詩人の言葉を借りるまでもない。

帰還、帰郷、帰村・・・。語呂合わせのようだが。それらはすべて棄損された。

子孫がいない家に、先祖の霊は戸惑ったことだろう。あれ以来3回目のお盆。

霊はどこかをさまよっていたのだろうか。

「家」とか「帰る」とか。あまりにも悲しい福島の地の一部。


せめて、ねんごろに弔え、先祖の霊を。棲んでいられる福島の地にある人達にとってもそれは”他人事“では決してないはず。

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